石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

映画『スパイシー・ポップコーン』感想

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インド系レズビアン映画

『ベッカムに恋して』がなかなか面白かったので、インド系つながりでこの映画も見てみることにしました。こちらは完全なレズビアン映画で、主人公をはじめたくさんのレズビアンキャラが登場します。

おだやかなストーリー展開、時々かまされる同性愛ネタのちょっとしたギャグ、ほのぼのしたオチなど、安心して見られる佳作だと思います。ただし話の起伏が少なく、日本語タイトルと違って、スパイシーさはゼロ。個人的にはもう少しぴりりとしたストーリー展開にして欲しかったと思います。

あらすじ

インド系アメリカ人のリーナと白人娘リサは若いラブラブカップル。ある日、リーナの結婚したばかりの姉が不妊症だと発覚する。リーナは姉のために自ら代理母になるが、それが原因で姉や母、そしてリサとの間に微妙ないさかいが……というのが、おおまかなあらすじ。

『ベッカムに恋して』とは違い、姉の結婚相手があっさり白人だったりするあたりは、イギリスとアメリカの違いなのでしょうか。しかし結婚式のシーンなどは共通点も多く、比較してみるのも一興かもしれません。

良かった点

まず、同性愛者であることで悩んで云々という鬱話ではないし、「レズビアン万歳」的なノンケ蔑視映画でもないこと。

アメリカとインドという異文化を扱っていながら、「お互いの文化を尊重しよう!」みたいな説教臭さがないあたりもポイント高いです。

それから、視覚的な美しさ。随所に出てくる白黒写真は美しいばかりでなく、ストーリー上で重要な役割を果たしています。ボディーペインティングのシーンも官能的で良いです。川のシーンなど、インドらしさを狙ったシーンの映像も印象的でした。

主人公のレズビアン友だち一同がおバカで笑えるのもアゲ。こういう人たちって日本にもいっぱいいそうで、妙な親近感がわきました。

あまり良くなかった点

まず、リーナとリサとの恋人らしさがあんまり感じられなくて、ほとんど「仲のいい友達」のようにしか見えなかったこと。一応ベッドシーンもあるのですが、たいしてセンシュアルでもなければ美しくもなかったです。せめてもう少し肌が綺麗に見えるように撮って欲しかった。「レズビアン=美しいもの」というステレオタイプに陥らないために敢えてそのような撮り方をしたという可能性もなくはないですが。

次に、話の展開が読めてしまうこと。「この先どうなってしまうの?」のようなハラハラ感がほとんどなく、全部予定調和で話が進むので、ありていに言って退屈です。どこでフラグが立ったのかまるでわからない一本道展開、とでもいいましょうか。もう少し、感情の対立やすれ違いのきっかけになるようなイベントを入れて、葛藤の具合を明らかにしてほしかったです。

もうひとつ残念なのが、コメディーと呼ぶにはあまりにも各所のパンチラインが弱いこと。この映画を「爆笑もの」と評している人もいるようですが、爆笑というほど笑える映画ではないです。たとえば主人公の母ネタなんかは、同じ移民でもスタンダップ・コメディアンのマーガレット・チョウの母ネタなんかにくらべると、ぬるいとしか思えませんでした。主人公のレヅ友たちのコミカルなシーンが結構笑えたのが、救いといえば救いかしら。

どちらかというと「家族もの」

ちなみに、この映画の中でいちばん印象的だったのは、インド文化とアメリカ文化の間、そしてノンケ文化とレズビアン文化の間で引き裂かれているリーナというキャラの描き方ですね。姉の結婚式で伝統的なダンスに興じる親戚たちを少し離れたところで眺めているシーン、母と姉が民族衣装でインドの儀式を行っているとき、ひとりだけベースボール・キャップにジーンズという格好で参加しているシーンなど、ふたつの世界にまたがったアイデンティティーがスマートに表現されていたと思います。

ゲイ-ノンケ間のギャップで悩むのは、リーナの家族に「リーナのルームメイト」扱いをされていたリサもだけど、このギャップが解消されるシーンは、とてもよかった。おでこにビンディをつけてもらってほほえむリサがとてもうれしそうで、見ているこっちもハッピーになりました。

ちなみにこのシーン、レヅが肯定される瞬間というより、メインキャラクター全員の間で、同性愛者/異性愛者、妊娠できる人/できない人、白人/インド人、親/子の間のわだかまりがとけていく瞬間と言った方が正確です。ここと、ラストシーンとに、Nisha Ganatra監督が描こうとした「家族」ってものがよく出ていたような気がします。

要するにこの映画は、レズビアンものというより家族ものとしての色あいが強いわけで、あんまり「レズビアン文化が」とか「インド文化が」とか気負いこんで見ない方が楽しめると思います。それより、「家族って何?」ってことを考えながら見るといいかも。

まとめと余談

『スパイシー・ポップコーン』は家族とは何かを描いた映画であって、レズビアニズムは話の焦点ではありません。話の筋はまったり路線なので、緊迫した愛憎劇はほどんどなく、退屈といえば退屈。でも随所に出てくるほのぼのシーンは一見の価値があるので、見ておいて損はないでしょう。

余談ですがこの映画、日本未公開かと思ったら、2001年東京国際レズビアン&ゲイフィルムフェスティバルで上映されてたんですね。レビューの邦題は、そのプログラムからとりました。日本語字幕つきで見た人の感想はどうだったのか、ちょっと聞いてみたい気もします。(あたしは字幕無しVHSビデオで見たので)