石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

PCゲーム『サフィズムの舷窓 ~an epic~』(ライアーソフト)レビュー

サフィズムの舷窓 ~an epic~サフィズムの舷窓 ~an epic~

Liar-Soft 2004-07-30
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推理アドベンチャーレズゲーの大傑作

結論を先に言うと、とてもとても面白かったです。主人公やお相手の女の子たちのキャラが立っていて魅力的な上に、Hシーンもおおむね良くできてます。全体的にコメディータッチなのは、「本格的な推理物」や「背徳感溢れる耽美レズ」を期待した人には肩すかしかもしれませんが、この作品にそんなもんを期待する方が悪い。主人公と共に「ひとつ人よりレズが好き~♪」と唄いながら(本当にこういう歌が出てきます)、子猫ちゃんたちとの愛を存分に楽しむのが正しい態度です。

泣けるシーンも抜けるシーンもばっちり入ってるし、ひとつひとつ手がかりをゲットして捜査メモを埋めていく作業も楽しいし、買って損はない名作だと思います。

杏里・アンリエットの魅力

さて、このゲームを購入する前に不安だったのは、主人公の杏里・アンリエットが「男気取りのダサいバリタチ」または「ヘテヘテなノリのなんちゃってレズ」なのではないかという点でした。杏里は通称「レズの王子様」だし一人称は「ボク」ですからね。

しかし、実際にプレイしてみて、そんな不安は吹き飛びました。 杏里ってかなり誇張されたキャラではあるけれど、現実にいてもおかしくない感じがします。お馬鹿で優しくて女の子への欲望ムラムラで、かわいいぞこいつ。その上、手の早さやモテっぷりは尊敬に値するし、いいキャラです。ガチレズのあたしとしては、同士か戦友を見る目で見ちゃいますね。つーか友達になれそう。

一部のノンケさんの中には、「レズゲーのはずなのに杏里が男にしか見えなかった」、という意見もあるようですが、いかにもノンケらしい見方だなと思いました。レズの目から見ると、杏里は可愛いリバ子でしかないです。自分で自分が女の子だとわかってるし、脱がされたり愛撫されたりも全然嫌がってないし、腕力も非力だし、どこをどう見ても女の子にしか見えませんよ彼女は。

タカラヅカ? 違います

このゲームを「タカラヅカ的なノリ」と評する人がたまにいますが、間違ってると思います。タカラヅカの男役ってあくまで世の男性よりも男らしい男、理想の男を演じるものでしょう? でも杏里は100%女だし、おバカで格好悪いところもてんこもりだもん。時々芝居がかった大仰な台詞回しになるところも、タカラヅカというよりむしろシェイクスピア的だと思います。それが当たっているかどうか、試しにここでクイズをやってみましょう。

クイズ:「杏里の台詞はどれでしょう?」

杏里のクサい台詞と、本物のシェイクスピア劇の台詞を混ぜてみました。下記1~4のうち、どれがシェイクスピアで、どれが杏里の台詞でしょう。漢字・かな使いなどの表記は統一してありますが、それ以外は原典から抜粋した通りです。

  1. 「キミはステキな魔法の杖を隠し持っていたんだ。ボクのいないところでそれをこっそりと振り、そ知らぬ顔でボクの前を横切る。ほんとのキミを隠したままで!」
  2. 「待ってくれ、ヘレナ、ボクの言い分も聞いてくれ、ボクの恋人、ボクのいのち、ボクの魂、美しいヘレナ!」
  3. 「神が与えたもうた試練だったと言うわけだね! 運命の絆は、時として奇妙にもつれて、愛し合う者同士をわざと引き離したりしてみせるのさ」
  4. 「ボクは捕らえられてもいい、殺されてもいい、それで本望だ、キミがそう望むなら」

(正解はレビューの一番下にあります)

バカではあっても一応ポーラースターの学生なんだから、シェイクスピア程度の基礎教養はあると思うんだよね杏里には。ていうか、女の子を口説くときの言い回しに使えそうな口調なら、桃色に輝く脳細胞をフル回転させてblank verseでもなんでもこなしそうよ、この人って。

「ハーレム設定」ではありません

このゲームに対して「ハーレム設定が嫌」という人もいるみたいですが、わかってないなーと思います。クローエのこの台詞を読まなかったのでしょうか。

クローエ(杏里に向かって)「ある意味、あなたはわたしたち全員の奴隷なんですからね」

杏里はハーレムの愚王ではなく、けなげな愛の奴隷です。単にポリガマスかつあふれんばかりの愛情を持っているタイプなのであって、エロゲにありがちな「ボーッとしているだけなのに何故か女の子にモテモテなキャラ」とはひと味もふた味も違います。子猫ちゃんたちのことをすごく大事にしてるし、モテて当然じゃないですかこんな人。

他のキャラクターについて

ちなみに杏里以外の女性キャラたちもとっても魅力的でした。エロゲによくある「安易な設定が服着て歩いてる」みたいな人が少ないのが好印象。つーかほとんど全員、口説いて回りたい! やりたい! と思うような子ばっかりだわ。リアルレズのあたしにまでそう思わせるとは、やるわねライアーソフト。

個人的にはかなえさん(天京院鼎)がイチオシです。本編での役回りも良かったし、追加シナリオで「もういまさら隠すこともないんでぶわーっと言ってしまうが」と前置きしてから叫ぶ台詞も最高だったと思います。

シナリオについて

全体的なストーリーは、まず本編(メインシナリオ三本)の方はまあまあってとこかな。ところどころに「マジですか?」みたいなご都合主義的な展開はありますが、基本的にバカゲーなので許容範囲内です。推理物としては一部ファンに「ズルい」と言われたトリックもありますが、あのアガサ・クリスティーにだって「あれはズルい」と言われる作品があるくらいだし、あの程度ならOKだと思うなあ。女同士の愛はどのシナリオでもばっちりだし、捜査や推理も楽しかったし、ほどよくエロも入ってたし、これで充分だよ。

そして、本編より凄いのが幻想シナリオ(メインシナリオクリア後に遊べる追加シナリオ28本)。愛も涙も笑いも切なさもぎっしり詰め込まれており、これを全部遊び倒して満足しない人はいない、というぐらいの充実ぶりです。個人的には『がんばれ! ニコル!』と最後の2本がお勧め。もう、7140円でこんなに楽しませてもらっていいのかと思っちゃったわよ。

ひとつだけ難点が

最後にひとつだけこのゲームの難を上げさせてもらうと、場面によってHシーンの出来不出来に差があることかな。平均すると合格点なんだけど、個々に見ると、すごく気持ち良さそうに書けてるシーンと「なんじゃこりゃ」なシーンに分かれるんです。

たとえばシーン名「授業より杏里が好き」なんかは「おお、杏里、セックス上手そう」って感じですが、「ソヨンと星空の下で」の描写はダサダサです。変だなと思ってたら、このゲーム、シナリオライターが複数いるんですね。そのために、書き手によって質のバラつきが出ている模様です。
とは言え、ゲーム全体では非常によくできたエロシーンの方が多いので、エロが目当ての方にも安心してお勧めできることには変わりはないんですけどね。

結論

笑いも涙も愛も切なさもエロも全部詰まってる、お勧めの一品です。まさにレズゲー界の歴史に残る傑作だといえましょう。続編作って欲しいわマジで。







クイズの答え

正解は1と3。2は『夏の夜の夢』のライサンダーの台詞、4は『ロミオとジュリエット』のロミオの台詞です。