石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

PCゲーム『Noel』(フライングシャイン)レビュー

NoelNoel

フライングシャイン
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力作だが難点も目立つADV

この作品、ストーリーの骨組みそのものはよくできてると思います。「セックスシーンを描くためにストーリーを作る」というエロゲ業界で、あえてストーリーを優先させたチャレンジャー魂は高く評価したいです。ただし難点も非常に多いので、手放しで礼賛する気にはなれません。まずは以下、プレイ時に感じた「難点」をいくつか列挙していきます。

『Noel』のここが難点

悪文が多すぎる

日本語として破綻している表現が多く、読んでいて大変疲れました。例をいくつか挙げます。

「炎の温度で沸いた血が満ちる」
何をどう燃やすかによって炎の温度は全然違うので、いったい何度ぐらいの温度を指しているのか皆目わかりません。
「下界を眺める天使の仕草で、遥か眼下の森を見下ろす」
誰も天使なんて見たことはないので、どんな仕草なんだか見当もつきません。
「つまらなくてつまらなくて、退屈」
馬から落ちて落馬した、みたい。
「茹で上がった猫みたいに、フーフー言い出すかと思ったら」
「怒った猫みたいに」の間違いでしょう。茹で上げられたら猫は普通死にます。
「逆賊、誅すべし」
決め台詞として多用されていますが、特定の主君のいる封建社会でもないのに「逆賊」という表現を使うのは変です。

他にも、視点がコロコロ変わったり、主語があいまいだったり、やたらとくどい描写が続いたりするところが多く(特に序盤とエンディング)、正直「ダルいから途中でやめて売っちゃおうか」と思ったほどです。レビューを書く予定がなかったら、本当にそうしていたかもしれません。

キャラクターが薄っぺらい

まずはノエル。死神と呼ばれて恐れられているという設定なのに、序盤、しょうもないことで動揺しすぎです。おまけに薬の飲み忘れで体調を崩したり、素人に突き飛ばされるまで相手の気配に気づかなかったりするなど、これでプロだとは噴飯ものです。ほとんど、バカな中学生が「死神ごっこ」「ボディーガードごっこ」をして遊んでいるようにしか見えません。

次に理理。アホ毛を三本立てたあの顔のどこが「掛け値なしの」「天使のような」美少女なのか理解しがたいです。地の文による表現が「美しい」の大安売りなのも退屈だったし、言動がまったく美少女ぶりを感じさせてくれないところも残念。少なくとも、「~てよ?」というお嬢様言葉と「うえー!」だの「し~らないも~ん!」だのという俗語をぐちゃぐちゃに混ぜて喋るというスタイルは、「お嬢様設定にしたかったのに書き手のボロが出てしまったキャラ」というイメージしか伝わってきませんでした。

他に、貴子や葵のキャラ立ても陳腐すぎる感じがしたなあ。「金髪縦ロールお嬢様」「セクシー売春婦」のステレオタイプそのままって感じで、面白みに欠けます。

アニメーションと声

戦闘シーンのアニメーションは中途半端で緊張感がありません。あんなものに容量を使うぐらいなら、ノエルと理理の出会いシーン(羽根が降ってくるシーン)を縦スクロールの一枚絵にして見せてくれたら感涙ものだったのに。

声の方では、特にノエルと理理が安っぽいアニメ声で演技もわざとらしいのが気になりました。仕方なくクリックでほとんどすべての音声を飛ばしながら読みました。フルボイスの意味、まるでなし。

安易なスプラッター

ひょっとしてこの作品のライターは、血と臓物をまき散らせばシリアスになるとか、残酷になるとか勘違いしているのでは。「Noel」では何かと言うと安易そのもののスプラッター描写が展開され、まるで掃除の行き届いていない肉屋の店先にいるようで心底うんざりしました。本当におそろしいもの、残酷なものを描こうとするならば、一歩手前で止めて読み手の想像力にまかせた方がよっぽど効果的なのに。『牡丹灯篭』の、夜が明けるとただ血のついた髷が地面にぽつんと落ちているシーンや、スティーブン・キングの『ゴールデン・ボーイ』のラスト1行の前の空白行、ああいう「間」の凄みと怖さを、『Noel』の書き手は学ぶべきです。

摂食障害持ちのリストカッター」臭

これは前項「安易なスプラッター」とも絡むのですが、お話のそこここに摂食障害持ちのリストカッターの匂いがするとあたしは思いました。具体的には以下の点が挙げられます。

  • 母親への愛憎と執着(ほぼ全員)
  • 過食傾向(理理)
  • 嘔吐の繰り返し(理理、ノエル)
  • 強烈な自己否定(理理、ノエルその他)
  • 悲しみや心の苦しみが流血描写に直結する(例:葵の小指)
  • 愛情と食べ物が直結する(例:ノエル歓迎会のケーキ、食堂のおにぎり)

別にそれがいかん、とは言いません。でも、ちょっと鼻につきすぎる感じです。一般的には、人はそれほどゲロ吐いたり怪我ばっかりしてるもんでもないので。ゲロ臭いヒロインって、イメージ的にはかなり下げですし。

分岐が少なすぎ

あのつくりでアドベンチャーゲームを謳うのはほとんど詐欺です。話が分岐しないのに、無理に選択肢を作ってどうすんのよ。最初から堂々とノベルゲーを名乗っておけばよかったのに。

レズゲとーしての致命点

理理がノエルの膣に指突っ込んでイカせながら「いつかノエルとひとつになりたい」とほざくところがヘテヘテすぎて悲しかったです。「いつか」って、じゃあアンタの今やってることは何なのよ。「ひとつになる」=「ちんこをまんこに突っ込むこと」っていう価値観はちんこ大好きノンケピープルのものであって、そんなもんを女性が好きな女性キャラに内面化させてどうする。また、ストーリー上での破瓜へのこだわり具合にも、ちんこ礼賛ノンケ臭が漂っていたと思います。そのへんが、レズゲーとしては致命的かなあ。

『Noel』のここがよかった

ここまで難点ばっかり挙げてきましたが、このゲーム、ノエルと理理の関係自体はそう悪くないです(ところどころ、愛というより共依存めいていて、やっぱり摂食障害患者テイストではありましたが)。ちなみにこのふたりのベッドシーンは、理理のヘテヘテ発言以外は白眉。いかにも初めての行為らしい丁寧な描写で、ガチなわたくしでもかなーり萌えました。なお、セックスなしの淡い百合関係じゃないと嫌な方は、選択肢によってそういう展開を選ぶこともできます。

作りようによってはただのザコキャラになってしまう叢雲・草薙も、葵とのやりとりなどで深みを出していたし、葵もとってつけたようなエロシーン以外はキャラが立ってて良いと思います。ちなみに、葵が一度だけ本名を言うシーンでほろりと泣かされてしまったのはナイショです。

まとめ

女の子同士の関係の描き方は、そう悪くないゲーム。でも、ゲロと血と内臓でぐっちゃぐっちゃのお話だし、文章は変だし、ところどころ設定も変。話が分岐しないのでゲーム性もありません。あんまりエロくもありません。それでも百合萌えシーンのためなら耐えられる! という人は、中古で買うぐらいはしてもいいのではないかと思います。新品で買ってプレイするほどの価値は、うーん、たぶんない。