石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

映画『ボーイズ・オン・ザ・サイド』感想

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悪い映画じゃないんだけど、中途半端

全体的に中途半端な感じです。悪い映画じゃないんだけど、DV、エイズ、同性愛、友情、人種問題、生と死など、ひとつだけでも充分に物語のテーマに成り得る要素をほんの一口ぶんずつちまちまと盛り付けてある感じなので、どれを取っても食べたりない気がしました。味付けもぼやけていて、コメディー風味にしたいのかドラマ風味にしたいのか今ひとつわかりませんでした。どれかひとつをメインディッシュにして、味もしっかりつけてくれたらよかったのに、と残念に思います。

良かったところ

1. ドリュー、いいです!

ドリュー・バリモアがキュート! バスの窓からの表情と言い、椅子に縛られた男をからかうシーンといい、「寂しかった」と恋人に抱きつくところといい、もうめっちゃめちゃキュート。ドリュー好きなら必見。

2. コミカルなシーンもいい

ところどころのコミカルなシーンが光っています。ネタバレを避けるため詳細は伏せますが、野球のバット、占い師の石、「殺した『かも』」という理由、逮捕のシーンや新生児室の前の会話など、めっちゃ笑いました。こうしたシーンのおかげで、全体のトーンが重くなり過ぎずに済んでいると思います。

悪かったところ

1. ジェーンは何故恋に落ちたの?

ジェーンがどうしてロビンに魅かれたのかよくわかりません。人種も趣味もまるで違ってて、共通点が全然ないじゃないですかこの二人。そりゃ、共通点がなくても人は恋に落ちるもんだけど、そのきっかけになりそうなエピソードがひとつもないんだもん。なーんか、「レヅは別に理由なんかなくても見境なく手近な女にのぼせ上がるはず」みたいな安易な偏見が隠れてないかい、と思っちゃうのは、レヅであるあたしの僻みでしょうかね。

そりゃ、ジェーンが自虐的な人で、手の届かない異性愛者ばっかり好きになるという設定はわかるんだけど、あの描き方じゃ、「別に相手は誰でもいいから、実らない恋がしたかった。で、たまたま近くにいた異性愛者がロビンだった」という風にしか見えないよ。

2. 話の焦点がぼけてる

ラストあたりの展開を見る限り、ジェーンとロビンの間の「決して恋愛には発展しないけれど、ただの友情というには深すぎる」みたいな絆がたぶんこの話の柱だと思うんだけど、他の要素がごちゃごちゃし過ぎていて焦点がぼやけていると思います。

ホリーのDV問題や殺人、出産などがどんどん話の前面に出てくるので、「そういう話なのか」と思ってたら、途中で「人種偏見とか同性愛差別とか嫌よね」ってテーマがしゃりゃり出てきて、そこへ「ノンケに恋をする報われないレヅの悲恋」ってテーマも飛び出して、まるで競馬みたいに競り合いながらゴールに向かっていくんだもん。どこにポイントを置いてみたらいいのかわからなくて混乱しました。
ジェーンとロビンの関係に話を絞って、あとは副テーマとして処理してくれればよかったのに。または、いっそ逆にホリーの話をメインにして、そこにジェーンとロビンの話を添える形にするとかね。

3. 字幕、最悪!!

これは映画自体の問題じゃないんだけど、変な訳が多すぎるよこの字幕! 訳者であるところの石田泰子氏がよっぽどの同性愛嫌悪をお持ちなんだろうけど、"gay"も"dyke"も"lesbian"も"lesbo"も徹頭徹尾「レズ」の2文字で済ませちゃうのはどうかと思うよ。それって、"black
people"と"colored" と"nigger"と"African American"を全部「クロンボ」と訳すようなものだとどうしてわかんないんでしょう。翻訳者なら、仮にも言葉を扱うプロだろうに。

さらに、用語どころか台詞自体がひどくホモフォビックに捻じ曲げられている部分もあるのよ。たとえばこの台詞がそうです。

"You don't know anything about it. Anyway, it's not your business. You are the one who loves somebody you can never have."

(みやきち試訳: 「あなたにはわからないわ。だいたい、あなたには関係ないし。付き合えない相手ばっかり好きになるあなたにはね」)

これが字幕ではこんな風に訳されています(強調は引用者によります)。

「あなたにはわからない。レズのあなたにはね」

"the one who loves somebody you can never have"=「レズ」と決め付けるとは、どんな誤訳だ石田泰子! 全世界のレズビアンに喧嘩売っとんのか!? 既に誤訳を通り越して「翻訳者の偏見展覧会」だよこれは。

一時が万事で、とにかく全てが偏見と蔑視にまみれた会話に置き換えられているため、字幕だけ追ってると登場人物のほとんど全員が偏見たっぷりのレヅ嫌悪症に見えちゃって、話の筋なんてわかんなくなります。見るなら字幕を無視してリスニングするか、DVDで英語字幕を見ながらにした方がいいです絶対。

まとめ

様々なテーマを盛り込みすぎて消化不良を起こしているのが惜しまれる一品。ひどい訳にも耐えられて、「一品料理じゃなくてもいい。幕の内弁当で充分」とお思いの方には良い映画と映るのかもしれませんが、あたしにはちょっと無理でした。ドリュー・バリモア大好きだから、見て後悔はしてないけどさ。