石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

映画『バタフライ・キス』感想

バタフライ・キス [DVD]

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陰鬱なロードムービー

サイコパスのレズビアンが連続殺人を犯しながら悲劇的な結末に向かっていく、という、あまりにも古臭い枠組みの映画です。同じ年に作られた『2ガールズ』が新鮮な果物だとすれば、こちらは干物といったところでしょうか。ただし噛み締めればそれなりに味の出る干物ではあるので、陰惨で宗教チックな話に抵抗のない方はどうぞ。ちなみに、この映画を「無償の愛」を描いたものと受け取る向きもあるようですが、あたしにはその解釈はピンとこない感じ。どちらかというと、ミスフィットな女ふたりの結びつきを通して「神の愛を渇仰する人間の哀しさ」を描く作品なんじゃないかと思いました。

「無償の愛」というよりも

この映画を、頭がおかしいユーニスと、そんなユーニスにどこまでも無償の愛を注ぐミリアムのラブストーリーだとする向きもあるようです。しかしあたしはその解釈に与しません。狂っているのはユーニスだけでなくミリアムもだし、ユーニスの方も彼女なりにミリアムを愛しているからです。

途中からミリアムが見せる異常なまでの否認や合理化(ホテルのシーンなど)を見れば、彼女もまた狂気の世界に足を突っ込んでいることがわかります。さらに、普段穏やかなミリアムがインタビューの中でちらりと見せる狂気は、むしろユーニスの狂いっぷりよりも怖いくらいです。なので、ミリアムはただの従順な共犯者でも愛の使者でもなく、ユーニスと同じ世界に属する人間なのだとあたしは思いました。

難聴のミリアムが、「不思議だけどユーニスの話はいつも聞こえた」と言うのも、ふたりが結局同じ種類の人間だからだと考えれば納得が行きます。最初のうちこそ意見の食い違いはあったものの、旅を続けながら2人は結局ユーニスの価値観を共有していくわけで、だから話が通じやすかったのではないかと。

以上のようなわけで、この映画は、「狂人と、その狂人をどこまでも受容する献身的な恋人」という構造にはなっていないとあたしは受け取りました。むしろ「同じ穴の狢」的な、ミスフィットな女2人の強い結びつきを描いた映画と言った方が近いんじゃないかと思います。

「ジュディス」の謎と人間の悲しさ

ユーニスが探し続ける「ジュディス」が旧約聖書外典「ユディト記」の寡婦ユディト(ユデト)であることは確かです。ラスト近く、海を漂う写真がドナテッロ作の『ユディトとホロフェルネス』の像であることからも、それがわかります。

ということはユーニスは自らをホロフェルネスになぞらえて殺して欲しがっていたのでしょうか。それだと一見、"I was going to sacrifice her."(注:herとはジュディスのこと)というユーニスの台詞と整合性が取れないようにも思えます。しかし、ジュディスの代わりを申し出たミリアムに彼女がさせたことを考えると、そのような行為をさせることが、ユーニスにとっての「ジュディスを犠牲にすること」だったと解釈するならば筋が通ります。つまり、自分は神に忘れられているから、ジュディス役の手を汚して神のもとに行こうということだったのでしょう。

しかしキリスト教的な発想で言うならば、ユーニスが「神に忘れられた」と嘆くのは神を試そうとする愚かな行為であって、ユディトが長老たちに「やっちゃダメ」と戒めたことなんだよね。で、それでもそういう方向に突っ走ってしまったのがユーニスとミリアムの悲劇なわけで。というわけであたしはこの映画のテーマを「神の愛を渇仰する人間の哀しさ」または「神のわざが人間にははかりしれないという悲劇」だと思いました。

まとめ

女性同士の愛に力点を置いた話ではないし、どこまでも血と狂気にまみれた暗い映画です。が、アマンダ・プラマーの迫真のキチガイ演技は素晴らしいし、サスキア・リーブスのインタビューシーンも深いし、哀しいラストシーンも胸を打ちます。ラブストーリー的なものに期待しすぎないで見れば、それなりに楽しめるんじゃないかな。