石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

『くちびるためいきさくらいろ』(森永みるく、一迅社)感想

くちびるためいきさくらいろ (IDコミックス 百合姫コミックス)

くちびるためいきさくらいろ (IDコミックス 百合姫コミックス)

今どきここまで同性愛嫌悪を押し出さなくてもいいのに……

ううむ。絵柄は可愛いし、ハッピーエンドで終わる話が主体だし、キスシーンやセックスシーンも綺麗なのに、読後に微妙に残るこの不快感は何なんだろう。

まず、目の描き方が今ひとつ好きになれませんでした。黒目が大きくて焦点がはっきりしない萌え系っぽい目なんだけど、それがどうも、こないだここで書いた「妙に焦点の合ってない目であさっての方向をボーッと見ている」ヘタレ百合作品を連想させちゃってダメ。ストーリー的には強い恋愛感情を抱いているキャラたちが多いのに、今ひとつ表情に「この人が好き」っていう力を感じないんだよな……。

あと、キャラたちがかなり強烈に同性愛嫌悪を内面化しているのが不快です。今時、女の子が女の子に恋をするのにあたって、ここまで「変なこと」だとか、「本当の恋じゃない」とか、「気持ちを告げたら傍にいられなくなるのが当然」とかいう空気をむんむん漂わせられてもなー。そういう超ホモフォビックな空気を大前提として、「困難にも負けずに恋愛関係(あるいは親密な関係)を成立させました、めでたしめでたし」とハッピーエンディングぶられても困るよ。なんかもう、「レズなんて嫌われると思っちゃうのが当然だよねー? でも、相手のお許しがいただければ幸せになれるのよ、よかったね」みたいなイヤなメッセージしか伝わってきませんでしたよあたしには。

というわけで、これは「♀♀関係には背徳感や罪悪感がつきもの」っていう古臭い発想を無邪気にシェアできる人じゃないと楽しめないタイプの作品だと思います。純粋に女の子同士の恋が見たいっていうだけなら、『ストロベリーシェイクSWEET』(林家志弦、一迅社)『少女セクト』(玄鉄絢、コアマガジン)を読んだ方が楽しめるんじゃないかな。つーかね、ガチな人としては、『くちびるためいき(略)』よりこの2冊の方がよっぽどリアルに♀♀世界を描いてると思うよ。やれやれ。

後日付記:呑気なヘテロがホモフォビアを再生産する (2006-06-28)

なぜだか上記の『くちびるためいき(略)』評を読んで逆上される方が感じる人が多いようなので、補足記事を書いておきます。なおこの記事は、2006年6月26日から27日にわたってうちのサイトの掲示板に書いた文章に加筆訂正したものです。

『くちびるためいき(略)』についてあたしは「今時ここまでホモフォビックな空気を漂わせられても困る」という趣旨のことを書いています。「今時」とわざわざ書いたのは、この作品のノリがほとんど20年以上前の「女の子にひかれる女の子」の感覚であって、一言で言って古いからです。これを「リアル」と感じる人は、今時のレズビアンイベントに行かれたことはないんでしょうか。10代の子が、ゴロゴロいますよ。あたしがレズビアン系の(またはmixの)クラブに通いまくるのをやめたのは、ゲイレヅmixのイベントで、どう見ても高校1年生ぐらいの女の子が何人か連れ立ってキョロキョロしながら歩いてるのを見たからです。世代交代だな、時代は変わった、とそのとき思いました。それだって90年代の話なんですよ。

たとえレズビアンイベント皆無の地方に住んでいたって、携帯でGoogleでもYahoo!でも行って、「同性愛」とか「レズビアン」とかで検索すれば、簡単にゲイリブサイトや、レズビアンの幸せカップルブログや、女の子が好きな女の子の出会いの掲示板がざくざくみつかる時代です。図書館にだって、ハードカバーのちゃんとした(差別的でない)同性愛研究の本がたくさんあります。とっかかりで「同性を好きになるのは変なことなんだろうか」と悩むところまでは今も昔も変わらないにしろ、その後、ちょこっと調べ物をすれば、「変なことじゃないよ」「あなたひとりじゃないよ」と言ってくれるサイトが/本が/仲間がいくらでも見つかるはずなんですよ、現代なら。それなのに最低限の情報すら求めようとせずにいつまでも悲劇のヒロインぶってるのは、

  1. 怠惰、あるいはバカ
  2. そこまで切迫していない呑気なヘテロセクシュアル(『なんちゃってレズ』を含む)

……のどちらかでしかありません。

最初から最後まで怠惰な/バカなだけのキャラに共感しろって方が無理です。さらに問題なのは2の方。呑気なノンケの古臭い発想を憑依させた「悲劇のヒロイン」像がもてはやされて再生産されることで、情報にうとい中高生の中に「同性同士の恋ってこんなものなんだ」という形でホモフォビアがさらに刷り込まれていくことが、あたしは怖いです。そういう意味もあって、今時ここまでホモフォビックな空気をむんむん漂わされるのは嫌だとあたしは書いたんです。