石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

PCゲーム『カタハネ』(Tarte)レビュー

カタハネカタハネ

タルト 2007-01-26
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文句なしの神ゲー

大傑作。「『カタハネ』が出ただけで、2007年は百合ゲー/レズゲーにとっての『当たり年』であった」と、ここに勝手に断言してしまいます。

一言で言うとこれはワカバ(登場人物のひとり)が言う通り「姫様と人形、ラブラブ」というお話なのですが、単に「ラブラブ」なだけでは全然終わっていないところが素晴らしいです。伏線のきかせ方では『アカイイト』にも負けず、プレイヤーの涙腺をゆるませる点では『アトラク=ナクア』にも負けず、そしてキャラクタの愛らしさや文句なしのハッピーエンディングっぷりでは他のどんなゲームにも負けていないと思います。買ってよかった。プレイできて幸せ。

緻密な伏線が最高

伏線の仕掛け方とその回収の仕方がとても巧みな作品でした。特にトゥルーEDを見たときには、「これほどまでとは」と唸らされました。同じ人が、モノが、そして些細な台詞が、後になってこんなにも「こういうことだったのか!」「あれがこんなところで生かされるとは!」と驚かせてくれるゲームは初めて見た気がします。

伏線が新たな新事実につながるたびに物事の意味がダイナミックに二転三転し、そのたびにニヤリとしたり泣き笑いしたり目頭が熱くなったりで、感情を揺さぶられまくりました。ちなみにあたしがもっとも心を動かされた「二転三転」は「アインのお墓の意味」です。詳しくは述べませんが、きっちり3回泣かされて、アインが大好きになりました。

「百合」だけによりかからないストーリーも最高

物語の柱はアイン

全ての謎が解き明かされた今、あたしの中ではこのゲームの柱(『主人公』ではなく、『柱』。このゲームでは、メインキャラクタみんなが主人公ですからね)は「クリスティナとエファ」でも「アンジェリナとベル」でもなく、「アイン・ロンベルク」です。メーカさんが『カタハネ』をむやみに百合要素を押し出して売ろうとしていないのも当然な気がします。これは、そういう話じゃないんだよ。「『史上最大の逆賊』アインは、実は良い人だった!」というアイディアを柱に、みんな(女女カップルも男女カップルも、そしてカップルになっていない人や人形も)が変化し成長していく群像劇であって、ヘンに女の子同士の愛だけ偏見フィルタをかけて特別視したりしてないんだよ。そこが本当に本当によかった。あ、もちろん女の子同士の愛の描写(冒頭に書いたとおり、終始『姫様と人形、ラブラブ』な話よ!)もよかったんですけどね。

女の子同士の愛に偏見なし

前段に書いた「偏見フィルタがない」という話について、ちょっと補足しておきます。

女の子同士の恋愛というと、「同性に惹かれるのはいけないこと/悪いことだ」いう偏見を前面に打ち出す描き方をしてしまう作り手さんが多いと思います。で、観客はキャラクタが「禁断」を乗り越える姿を見て興奮する、という図式ですね。

ところが、『カタハネ』にはそのような偏見あふれる図式がまったくありません。クリスティナとエファが悩むのは「女の子同士だから」ではなく、「それぞれが住む国が違うために一緒にいられないから」です。アンジェリナとベルがためらうのも「女の子同士だから」ではまったくなく、別の理由によるものです。つまり、女女カップルを描くにあたって、一貫して「その人がその人だから好き」「好きだから一緒にいたい」という強い気持ちだけが軸になっているんです。ガチな人としては、これはとても嬉しかったなー。

ちなみに同性同士のセックス描写も繊細でよかったですよ(特に、姫様の『調律』シーンのエロさと言ったらもう!)。戸外でのHシーンが多いのもぜんぜん嫌味ではなく、個人的にはレズビアン映画『素顔の私を見つめて…』のアリス・ウー監督が同映画のセックスシーンについて語ったこの台詞を思い出したりしてました。

「重要なのは、こういう彼女たちを初めて見るときに2人をシーツで隠したりしたら『これは恥ずべきことだ』と言ってるようなものよ。だからむしろ存分に見せたかった」

そうだそうだ、存分に見せちまえ!(ただし、通報されない範囲で、ですけど)

人形への偏見もなし

もうひとつ、この世界には人形に対する偏見がないのもよかった。『ブレードランナー』みたいにレプリカント(人形)が人間に見下される世界での悲恋物語だとしんどそうだなあと思ってたんだけど、ぜんぜんそんなことはなく、人形たちは人間の「家族」として大事にされていて、ほっとしました。名前の頭に「R」もついてませんでしたしね。とにかく、手垢のついた「偏見に負けない愛」ではなくて「愛」そのものを丁寧に描いてくれているところが嬉しかったです。

キャラクタの愛らしさも良い

まずココが超絶可愛いです。あのきゅっぱきゅっぱした足音といい、読点の位置が独特なしゃべり方といい、たまりません。キャラクタの口調を特徴あるものにするには、語尾に「にゃ」だの「にゅ」だのと珍妙な文字をつけるという安直な方法がよく使われるものですが(そしてユーザ側は『またこれか』『うぜえ』とうんざりしがちですが)、読点の位置で差別化するっていうのはすごく新鮮で、読んでいてとても楽しかったです。子どもみたいな性格にもわざとらしさやあざとさが全くなく、ただ幼稚なだけではないことがわかるので、読めば読むほどココが好きになっていきました。一家に一台(いや、『一人』ですね)ココがいればいいのに。

ココ以外のキャラクタもみんな魅力的なんですが、このちっちゃくて可愛いココが、こんなに長くて悲しい歴史(ハッピーエンディングだけどね!)の要になっているというところがこのお話の最大のポイントですね。そこが本当にうまいなあと思いました。

その他

  • 緻密で綺麗な背景には終始目を奪われっぱなしでした。「この背景で映画とか作れちゃうんじゃないかしら」と何度も思いましたよ。
  • 男女間セックスの描写ありです。とは言え綺麗な描き方ですし、男性の裸自体はほとんど出てこないのですが、「とにかく男女の絡みがあるだけでダメ!」な方には向かないかも。
  • 唯一残念だったのはシステム面。まず、セーブファイルはページ数だけじゃなくて「1-1」とか「1-2」のように、そのページの何番目のファイルなのか一目でわかるようにして欲しかったです。それから、New Gameで2周目を始めると既読スキップがきかないのもつらかった。些細なことですけどね。

まとめ

「こんなにすごいもんをエロゲなんていうマイナーなメディアで出しちゃっていいんですか?」とメーカさんを問い詰めたくなるほどの大傑作。これを18歳以上のエロゲーマーしか楽しめないなんて、勿体なさすぎます。いっそHシーンをカットしてコンシューマでも出して、世に知らしめまくってほしいぐらいです。