石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

映画『A Family Affair』感想

Amazon.com: A Family Affair(2003): Helen Lesnick, Erica Shaffer

レズビアン同士の結婚をめぐるコメディ

「主人公レイチェルはユダヤ人でニューヨーカーのレズビアン。元カノに捨てられて両親の住むカリフォルニアに引越した彼女は、PFLAGの活動に熱心な母親のお膳立てで、新カノ・クリスティーンと付き合い始める。付き合いはうまくいき、クリスティーンとの結婚も決まるのだが、結婚式の2週間前になって元カノ・レジーが突然現れたのだった。レジーの意図は? そして、レイチェルがクリスティーンとの結婚にいまひとつ乗り気でないわけは? ふたりの結婚はいったいどうなるのか?」

……というあらすじのロマンティック・コメディなのですが、小技がきいたギャグが楽しいし、誰も同性愛そのもので悩んでいないストーリーがユニークで、とても面白く見ることができました。プロットの陳腐さと、結局誰も既成の「家族」観や「結婚」観をまったく疑問視していないという点はやや残念でしたが、トータルすると100点満点で70点は超える出来だと思います。

この映画、ここがよかった!

まず、レイチェルのモノローグに合わせて映像で展開されるギャグが楽しかったです。

例1:
  • モノローグ→「私は生まれつきDNAレベルでレズビアンだった」
  • 映像→産婦人科医が赤ちゃんを手渡しながら「おめでとうございます、立派なレズビアンの赤ちゃんですよ」
例2:
  • モノローグ→「カミングアウトしたとき、ママはドラマの主人公みたいに嘆いて、まるで一週間続くユダヤ式のお通夜をしかねない勢いだった」
  • 映像→ユダヤ式のお通夜の真っ最中、「どうしてお前はお兄ちゃんみたいにロースクールに行ってくれなかったの!?」と嘆き悲しむ母親。その手には、レイチェルの名前が載った「レズビアン大学卒業証書」がしっかりと握り締められている。

念のために言っておきますが、「立派なレズビアンの赤ちゃん」だの「レズビアン大学卒業証書」だのというのはあくまでもレイチェルの冗談ですよ。他にも「元カノ5人による、『新カノは本当の彼女として合格かどうかテスト』」のシークエンスなんていうのがきっちり映像化されており、すげー笑いました。なお、映像以外のさまざまなギャグも、十分面白かったです。

次に、誰も同性愛そのものについて悩んだり困ったりしていない点が良いと思いました。カムアウト時の親の嘆きは描かれていても、それはあくまで過去のことであって、このお話の時点では「同性愛者であること自体は全然OK。今考えなきゃならないのは、同性愛者の結婚(もちろん同性との)や、そのための改宗や、同性カップルで子供を持つことの方」ってことになってます。考えてみたら、同性愛者の人生はカムアウトして親や周囲に受け入れられた時点でめでたしめでたしと幕を閉じるわけではないのですから、こういうお話も当然作られてしかるべきなんですよね。

でも、ここは今いち……。

まず、プロットが陳腐なこと。レイチェルが結婚に乗り気でないところや、元カノとの間でうろうろする様子は、よくある「責任を負わされるのが嫌で結婚を避けようとする駄目な男」のようにしか見えませんでした。せっかくレズビアン同士の話なのに、主人公にただの「だめんず」を演じさせてどうする。せめて、レイチェルが結婚に消極的な理由にもう少しひねりがあるとよかったと思います。

それから、同性愛こそ肯定していても、「家族」だの「結婚」だのという古い価値観には誰も疑問をさしはさんでいないこと。レイチェルの両親がゲイ・フレンドリーなのはいいのですが、彼らの言っている内容をよく見ると、「そろそろいい娘さんを見つけて落ち着きなさい」だの「孫の顔を見せてくれ」だの、よくあるホモフォビックな親が言うこととまるで変わらないんですよね。しかも、レイチェルもクリスティーンもそれに対して違和感を抱いていない様子なのが不気味でした。

「人間は異性愛者であるのが当たり前」という価値観も、「人間は一対一の関係で結婚して子供をつくるのが当たり前」という価値観も、同じぐらいグロテスクだと思うんですよ、あたしは。せっかく前者から脱却できているのに、後者にはどっぷり首まで浸かったままっていうのはどうなのよ。

ただし、見方を変えるならば、この映画は「同性愛自体が問題視されなくなっても、まだ『ああしろ、こうしろ』というさまざまな伝統の押し付けはやまない」という現実をコミカルに描き出している作品だとも言えるかもしれません。そういう点では非常に面白いとも感じましたね。

まとめ

家族礼賛や結婚賛美がやや鼻につく感じはありますが、全体的には「笑えるロマンティック・コメディ」と評価してよい作品だと思います。日本語字幕版も出してくれたら嬉しいなあ。(あたしが今回見たのは、北米版のDVDです)