石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

PCゲーム『その花びらにくちづけを わたしの王子さま』(ふぐり屋)レビュー

その花びらにくちづけを わたしの王子さま 新装版

その花びらにくちづけを わたしの王子さま 新装版

前作の2大欠点を改善した学園百合物

好評だった学園百合ゲー『その花びらに口づけを』のシリーズ第2作。今回は、地味な委員長タイプの主人公楓と、従妹の美少女紗良との恋物語となっています。ラブくて綺麗な絵と「道具なし・男なし・ふたなりなし」のありがたい路線は相変わらず。その上で、前作にあった「ラブラブのはずが、最後でただの思春期の『なんちゃってレズ』っぽくなってしまっている」「エロシーンがところどころ野郎の発想」という2大欠点がかなり改善されてます。

ここがよかった!

絵がラブい。

今回もラブくて綺麗でえちくて素敵でした。眼福眼福。それも裸で大股開いて喘いでるような絵ばっかりじゃなく、キスや抱っこや添い寝のCGなどもたくさんあるのが嬉しかったです。

主人公に、「相手とずっと一緒にいたい」という意志がはっきりあること。

前作では、甘くてラブラブな話のはずなのに最後の最後で主人公が「しょせん思春期のレズ関係は一時的」みたいな含みのあるモノローグをかましていて、そこがとても悲しかったんですよ。けれど、今回の主人公には、相手をずっと愛し守り続けようというはっきりした意志があります。これは見ていてとても嬉しかったです。

もちろん、たとえ男女関係にしたって、恋なんて儚いものだとは思うんですよ。でも、だからといって、初恋の相手とつきあい始めたばかりでもう「いつかは別れるかもしれないけどべつにいーや」的なことを頭のどこかで考えているような状態って、それはなんか恋とは違うものでしょ。百合ものでわざわざそういうオチを持ってくるというのは、要するに「でも女は結局男の方が好きなはず」というノンケの妄想に尻尾を振って玉虫色のエンディングにしてるだけだと思います。そんなの愛でも恋でもない、と思ってしまう自分としては、今回の楓の心理描写はとても嬉しかったです。

お話を盛り上げる装置として安易にホモフォビア(同性愛嫌悪)を持ち出さないこと。

「障害のある恋ほど燃え上がる」とよく言いますが、百合ものって、恋をなかなか成就させないための「障害」として安直にホモフォビアを持ち出すパターンが多いと思うんですよ。けれどもこの作品では、恋の進展をさまたげるのはホモフォビアではなく、楓の地味さと自信のなさ、そして臆病さです。そこがとても新鮮で面白かったし、お話全体が単なるラブストーリーではなく、楓の成長物語としても読めるところもユニークで良いと思いました。

サブタイトルが「わたしの王子さま」なのに、男きどりの勘違い女は出てこないこと。

「女のコ同士で『男と女ごっこ』に興じる話」ではなく、あくまで「女のコが女のコを好きになる話」であるところがいいなあと思います。なお、この「王子さま」という語は、ちゃんとお話の中で重要なキーワードとして機能しており、そこもとても良かったです。詳しくはプレイしてのお楽しみ。

エロシーンに改善が。

前作はかなり男性目線の描き方で、「女のコ同士でこれはないんじゃ……」というような表現が何箇所かあったのですが、今回はかなり改善されていると感じました。少なくとも、「女同士だけこその繊細さとツボを心得た動き」みたいな、「どう考えてもこのキャラがこれは言わんだろ」的な萎え台詞は激減。これは高く評価されてしかるべきだと思います。

ただし、問題点が皆無だというわけでもなく、やっぱり「これはないんじゃ……」と思ってしまう描写があるにはあったんですけれども。(どんな点かについては後述します)

今いちだったところ

エロシーンのここが変。

下着の上からクリトリスを触っていて「指が濡れてきちゃった」て、どんなクリトリスやねん! チンコと違って先走りはないんですよ、クリトリスには。「なんか、ブリーフごしにペニスを触っている男みてえ」と思ってしまって、大変げんなりいたしました。

さらに、ボディーシャンプーの扱いがちょっと変。粘膜にそんな刺激の強いもんつけたら痛いだろうに、楓と紗良は「ヌルヌルする」と大喜びで塗りたくって膣粘膜摺り合わせてます。どんな鋼鉄の外性器ですかそれは。そこまで極端に鈍感な股間を持つ百合キャラって、なーんか嫌だと思うんですが。

あとは、「オーガズム=潮吹き」って表現ばかりなのがつまらないなあ、とか。潮吹く女性なんてそうそういない(と思う)上に、毎回毎回吹くもんでもないと思うんですが、このシリーズではまるで野郎の射精のようにやたらと噴射しまくりなのがちょっとウソっぽいと思うんですよ。ただし、これに関しては、誇張表現だと言えばそれまでなんですけれども。

楓の変身(外見の)に華がない。

紗良の尽力でモデル業界にデビューしてクラスメイトをあっと言わせる、ぐらいやるかと思ったのに、実際はなんだか小地味な変身に終わってしまっているのがちょっと残念でした。これは楓の心境の変化にもつながる大事なエピソードなので、もっと派手に盛り上げてもよかったのではないかと思います。

まとめ

難点がゼロとは言いません。言いませんが、前作よりもさらによく練られた作品であることは確かです。自信のなさや嫉妬を乗り越えて「一生好きな人を守る」とはっきり決めた楓の姿に、あたしはシェイクスピアがかつて書いたこの台詞を連想しました。

ああ、数々の悩みが融け去るように空に消えてゆく、疑いの雲も、先走った絶望も、胸を締めつける不安も、緑の眼をした嫉妬も……ああ、今はただ恋する心だけ。

(『ヴェニスの商人III-2』福田恆存・訳)

女のコが好きな女のコのこういう心境を見たい人なら、「買い」な1本だと思います。