石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

『耽美なわしら 完全版(上・下)』(森奈津子、フィールドワイ)感想

耽美なわしら 完全版(上) (Book of dreams)

耽美なわしら 完全版(上) (Book of dreams)

耽美なわしら 完全版(下) (Book of dreams)

耽美なわしら 完全版(下) (Book of dreams)

当事者視点のクィア恋愛コメディ

『耽美なわしら』は、ゲイ、レズビアン、バイセクシュアル、ノンセクシュアル(Aセクシュアル)のキャラクタたちが繰り広げるドタバタ恋愛コメディです。セクシュアルマイノリティにありがちなアホな偏見や妄想をカリカチュアライズしてギャグにしてしまっているところがめちゃくちゃ面白かったです。特に、横暴なレズビアンのキャラクタ・田中彩子の暴言の数々なんて、レズビアンな自分としては「うわー、耳が痛いー」と思いつつも涙を流して爆笑してしまいました。好きだわー、この暴走機関車のような当事者視点ギャグ。さらに、単に面白おかしいだけでは終わらず、要所要所にしっかりと深みがある小説であるところもよかったです。

田中彩子名言(暴言)集

彩子の名言をいくつか抜き出してみると、こんな感じです。

(引用者注:レディースコミックの『男性不信ゆえにレズになってしまいました』という内容のレズビアン漫画に憤りながら)「だいたい、どうして、レズになるのに言い訳じみた理由が必要なわけっ? わたしはねぇ、生まれつきレズビアンなのよっ! (引用者中略)男に棄てられたり犯されたりセクハラされたり裏切られたりすることもなく女が大好きで悪かったわねぇっ」

わはははは。上巻冒頭(pp. 7-8)に出てくるこの台詞だけで、もはや他人とは思えません。そうよ、そりゃあ男に絶望してレズビアンになった人だってこの世には存在するんだろうけど、みんながみんなそうだと思ってもらっちゃ困るのよっ!


(引用者注:バイセクシュアルの男性キャラクタの話をしていて)「わかるものですかっ! あいつだって、しょせんは男じゃないっ! 腹に一物あり、股に一物ありよっ!」

この(p. 13)男に対して容赦ないところ(または、偏見コテコテなところ)と無駄に下品なところが、すっごくレズレズしいと思います。ええ。

「はっきり言って、世界中どこでも、軍隊は同性愛者だらけなのよっ。世界の国々は同性愛者に護ってもらっているも同然なのよっ。だから、国家はもっと同性愛者の権利を保護するべきなのよっ! (引用者中略)国防はゲイとレズビアンに押し付けておきながら、ヘテロの奴ら、わたしらをさんざん迫害したうえに、異性愛を必要以上に奨励してるのよっ。おかげで、見なさいよ! 人口の爆発的増加で、ついに人類滅亡の危機! ああ、馬鹿馬鹿しい!」

これ(pp. 94-95)はいみじくもアメリカ人コメディアンのマーガレット・チョウが、米軍の"Don't ask, don't tell"というセクマイに超失礼なポリシー(同性愛者や両性愛者の軍人に性的指向を隠すことを強要するポリシー。どんな歴戦の勇士であろうと、カミングアウトしたとたんに容赦なくクビにされます)をこう言って笑い飛ばしたのと同じですね。「馬鹿馬鹿しい。レズビアンなしで国が守れるとでも思ってるの!?」

軍隊が同性愛者だらけとまで言っちゃうのはやっぱり彩子の偏見なんですけど、大好きだわ、こういう発想。(※もとはと言えば、彩子のこの発言についてビューワー様からメールで教えていただいたのが、『耽美なわしら』を購入したきっかけだったりします。こんな素敵な作品の情報を教えてくださってありがとうございました、ビューワー様)

その他、印象深かったところ

全編通してセクマイのお馬鹿で陽気な世界を描きつつ、「ゲイの中に内面化されたホモフォビア」をきっちりえぐり出す描写なんかもしっかり入っているのが良かったです。ちなみにここで彩子が言い放つ暴言がまたいいですよー。あと、耽美な少年愛の世界を愛するあまり、「ホンモノなのに耽美じゃなくてすみません」(p. 34)と恥じ入っている繊細なマッチョゲイ・俊彦のキャラも魅力的。随所に出てくるセクマイ用語の解説や、やおい小説及びエス小説についての言及なんかも、笑いのツボを押しまくる感じで楽しかったです。

まとめ

セクシュアルマイノリティの登場するスカッとしたコメディを探している方におすすめの小説です。どこまでも当事者視点で描かれたギャグが痛快ですよー。