石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。

小説『花宵道中』(宮木あや子、新潮社)感想

花宵道中

花宵道中

「美しい話」「エロい話」「百合話」に飢えている人は即買え!

現在いちばん期待している新人作家さんの処女単行本です。男女話も百合話も素晴らしかったし、「宮木あや子」の筆力をようやく本のかたちで1冊まるまる堪能できて、今めちゃくちゃ幸せです。「美しい話」「エロい話」「百合話」に飢えている人は、即買いですよこの本!

圧倒されました。

一読してまず、書き下ろし作「青花牡丹」の深みに完全に圧倒されました。具体的にはp124の最初の6行で息が止まるかと思い、ついで不覚にも涙がどっとあふれてきました。デビュー作にして表題作の短編「花宵道中」(※R-18文学賞大賞受賞時の角田光代氏の選評が、こちらのページの中ほどで読めます)を、まさかこんな形で収束させてみせるとは。すごいわこの人。単行本を待っていてよかった!

百合要素について

宮木さんの作風の特徴は、

  • 美しく切ないストーリー
  • 無駄のない端正な文体
  • 濃厚で、かつ「エロいのにエグくない」性愛表現
  • 読み手の脳裏に色彩や映像を伝えきる描写力

などにあると思うんですが、この力をもってして男女物のみならず百合物も書いてしまう作家さんなのがたまりません。実はこの『花宵道中』の最後をしめくくる一篇「雪紐観音」も、それなんですよ。書き手に力量があれば、舞台がお江戸だろうとどこだろうと、ここまで愛おしくてきりりと胸に刺さる百合ストーリーが紡げるというお手本みたいな作品です。実力派の百合作家さんを探している人は、是非読むべし。

その他の要素について

この本は全てのお話が遊郭「山田屋」を舞台にした短篇なのですが、面白いのは全体がひとつの群像劇として機能しているところです。読み進むほどに登場人物ひとりひとりの性格や容貌、出身地や人間関係までがわかってきて、しまいにはたとえば美貌の女郎「桂山」と「緑」の美しさがどう違うか、なんてところまでありありと脳裏に思い描けるようになります。ふだん時代ものなんて全然読まない人にも、とても読みやすい本なんではないでしょうか。

それから、上の方では百合要素ばっかり誉めましたが、男女物もいいですよこの本。男女の性愛のみならず、切なさとかずるさとか恋しさとか哀しさとか、そういうものを全部溶かし込んだお話が目白押しです。レズビアンのあたしが読んでいても全然嫌ではなく、むしろ宝物のように何度も読み返したい物語ばかりでした。

まとめ

そんなわけで、冒頭にも書いた通り、「美しい話」「エロい話」「百合話」に飢えている方は宮木あや子を読まない手はありません。ちなみにこの作家さんの原点はむしろ現代物にあると思うので(たとえば「小説すばる」2007年3月号に掲載された短編「春眠」とか。あの男女エロの描写、いいですよー)、次は現代物の本も出てくれると嬉しいなあと思ってます。