石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

レビュー内に書ききれなかった『カタハネ』のネタバレ感想をぼちぼち書いてみるよ。(その1) - 「横を通り過ぎる人と、そうでない人」

カタハネカタハネ

タルト 2007-01-26
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プレイ後1ヶ月以上たち、ようやく少し落ち着いてきたので、プレイ日記やレビューの中では書ききれなかった『カタハネ』の感想をぼちぼちと書いていこうと思います。あのゲームはとにかく心をわしづかみにされた箇所が多すぎて、感じたことをどこかにアウトプットしまくっておかないと気が済まないんです。

で、今回は、横を通り過ぎて行く人と、そうでない人の話。

「あたしが、あなたの横を通り過ぎると思うの?」

レズビアンであるあたしがこのお話で非常に共感したのは、ベルとアンジェリナのバーミリオンでの噛み合わない会話のシーンでした。具体的には、アンジェリナの態度を見て「注意を引きたい子どもと同じだ、ずっと自分の横を通り過ぎていく村の子たちを見ていたからわかる」という趣旨のことを言うベルに、「あたしが、あなたの横を通り過ぎると思うの?」とアンジェリナが怒るところ。

レズビアンもまた「横を通り過ぎて行かれる」立場

なぜここに共感したのかというと、レズビアンもまた常に「横を通り過ぎて行かれる」立場だからです。これは寿命の話ではなくて、レズビアンには「結婚→出産→『子』から『母』へ、やがて『祖母』へとクラスチェンジ」というライフステージの変化がない*1ため、かつて付き合ったヘテロの女のコ*2たちがどんどん結婚して変化して自分の横を通り過ぎていくのをただ眺めているしかない、ということです。

どんなに「愛してる」だの「一生そばにいる」だのと言ってくれたって、ヘテロの女のコはやがて「あなたとじゃ子どもが作れない」「親を安心させられない」「将来が不安」と呟いてさっさと男に股を開き、「人並みの人生」という名の弾丸列車に飛び乗ってばびゅーんとどっかに行っちゃうんですよ。で、めまぐるしくライフステージの変化をこなしながら、地平線の彼方に消えて行ってしまい、取り残されるのはいつも、ずっと変わらないままのレズビアンの方。だから、女のコとつきあったことのない女のコに告白されても、取り合わない方がいい。きっとそのコもいずれ通り過ぎて行ってしまうだけだから。

……というようなことを瞬時に連想したので、アンジェリナもまた村の子どもたちと同じようなものだろうと考える*3ベルの気持ちがとてもよくわかる気がしたんですよ。同時に、ベルからそう言われて「とにかく! あたしの気持ちは、あなたの横を通り過ぎていった人たちのようには変わらないと思いなさい!」と怒るアンジェリナの気持ちも痛いほどわかる、と思いました。数は少ないけれど、横を通り過ぎることなくずっと愛し続ける覚悟のある人だってやっぱりいますからね。

アンジェリナの覚悟に説得力があるわけ

ここで大変面白いのが、アンジェリナの言葉に嘘がない(=本当にエファの横を通り過ぎないと決意している)と読み手にはっきり伝わってくることです。これは、以下のふたつの理由によります。

  1. このシーンの前のモノローグで、アンジェリナのセクシュアリティが暗示されている
    • 「恋愛の対象が『男の子』という部分が考えづらい」と、アンジェリナ本人が言っています。
  2. アンジェリナは言葉だけでなく行動で想いを示そうとしている
    • アンジェリナはここで、「あたしは、これまでの誰よりも、あなたのそばに居るのに相応しい人間だと、明日の感謝祭で証明してみせるわ」と言い切っています。結局のところ、本当にずっとそばにいるかどうかは行動で証明するしかないわけですから、このアプローチは説得力があるなとあたしは思いました。

こういうところの描写がしっかりしているので、後はもう、ひたすら「アン、頑張れ」とか「ベル、アンは特別よ! 気づきなさいよ!」とか応援しまくりながら続きを読みました。ふたりがきっちりとハッピーエンディングにたどりついたときは、とても嬉しかったです。

補足

もちろん、レズビアンのプレイヤーがみんな同じような読み方をしたとは限らないと思います。単に、「ガチな人であるあたし個人は勝手にこのようなことを考えながら読みました」というだけの話です。念の為。

*1:同性婚の制度がある国や、レズビアン・マザーが法的に保護される国ならまた少し事情は違うのかもしれませんが。

*2:正確に言うとこういう女のコの全部が全部ヘテロセクシュアルなわけではなく、「レズビアンだけど男と結婚したりセックスしたりはできる人」や「バイセクシュアルで、結婚願望がある人」なんかも含まれるんでしょうけど。

*3:厳密にはこの時点でベルはアンの恋心には気づいていなくて、「なぜか自分を見てほしがっているらしい」としか把握できていないんですけどね。そのへんのすれ違いの描写も非常にうまいシーンでした。