石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『絶対×浪漫』(むっちりむうにい、一迅社)感想

絶対×浪漫 (IDコミックス 百合姫コミックス)

絶対×浪漫 (IDコミックス 百合姫コミックス)

浪漫シリーズ3本が最高

『コミック百合姫』等に掲載された作品を集めた短編集。後半のやや古い作品群はあたしにはあまり合わなかったのですが、巻頭の後藤海と東城つばき(当然、両方女のコです)のシリーズ物「体育倉庫浪漫」「ワンルーム浪漫」「Song Song 浪漫」の3本がとにかく良くて、「買ってよかった!」と浮かれているところです。

この浪漫シリーズ(と勝手に命名)3本の最大の魅力は、メリハリです。キャラクタの性格も、間の取り方も、コマの使い方も、実に小気味良くメリハリを効かせた描き方になっているんです。まずキャラクタについては、主人公の海に終始迫り倒す東城さんが良い例だと思います。このキャラは黒髪サラサラストレートのロングヘアで、「キレイで秀才でおまけにお嬢様」(p40)というある意味テンプレ的な設定を背負っているのですが、言動が全然テンプレ通りじゃないんですね。むやみに論理的だわ、堂々と海を「ストーキング」するわ、口調も独特だわ、そのくせどこか抗えない魅力があるわで。その、ベタな設定と特殊な性格とのコントラストがたいへん新鮮で、面白かったです。

間の取り方については、p21のこの淡々とした会話のシーンなんかが参考になるでしょうか。

東城(海の家に勝手に遊びに来ている)「実は海 こうみえても今日の私は緊張しているのだ」
海「なんでよ」
東城「お泊まりだから」

(間)

海(逆上して)「帰れええ」

画像でお見せできなくて残念ですが、ここの間の取り方がすげーいいんですよ。別の言い方をするなら、「表情やコマ割りでの緩急のつけ方が絶妙」と言ってもいいかと思います。他にも、キスシーンや、表情だけで気持ちが伝わるシーンなど、メリハリのきいた良いシーンはたくさんありますよ。ギャグっぽいところでは、東城さんの歌声を表すあのコマ(p44)が素晴らしい。「よくもこんな思い切った描き方を」と、笑い転げました。

あ、ちなみに、「帰れ」とか言っていても海は基本的に東城さんのことが好きなので、恋愛要素がないと嫌な方もご心配なく。海が自分の気持ちにうっすら気づいて悶々とするあたりなんかも、見どころだと思います。