石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

「アカイイト―花影抄―(前編)」(原作:麓川智之、漫画:片瀬優、ジャイブ『月刊コミックラッシュ』2007年5月号掲載)感想

『アカイイト』漫画版前編

PS2百合ゲー『アカイイト』のコミカライゼーション。時系列でいうとゲームの後日譚であり、桂の先輩「益多貞子」が登場します。全体的に、ゲーム本編より少しホラー色またはオカルト色が強い感じです。ストーリーはページが進むごとにどんどん面白くなってくる感じで、特に葛ちゃんがサクヤさんに告げたあの情報が後編でどう展開されるのか、気になってたまりません。ただ、ストーリーはともかく、絵や百合要素についてはひっかかる点も残ります。詳しくは以下。

絵について

黒と白のメリハリのきいた画面は和風伝奇っぽくていい感じ。しかし、少し見づらい印象も受けます。たとえば冒頭の吸血鬼と烏月の対決シーンでは、吸血鬼の描写はまるでモブシーンのような遠景と口元のアップだけ、しかも両者同じような長い黒髪というのはえらく読みにくかったです。近景になってすら吸血鬼の服装さえもよくわからない描き方で、烏月がいったいどんな相手と戦っているのかまるでイメージできず、混乱しました。「ここまでぞんざいな扱いを受けているということは、この吸血鬼って単なるザコキャラ?」とまで思ってしまい、クライマックスのあのシーン(伏せます)があんまりピンときませんでした。

キャラそれぞれの絵については、ゲーム版と似ている/似ていないという瑣末なことはおいといて(何もかもゲーム版のままの絵でなければ許さない、という人はゲームだけやってればいいのです。漫画化とか映画化というのは、そういうものでしょう)、キャラごとの描き分けが甘い印象を受けました。烏月と益多先輩の違いなど、前髪だけです。また、p209の葛とサクヤの電話シーンでは、両者の前髪の描き方がほとんど同じな上に受話器を右手に持つポーズまで同じなので、4コマ目(葛)と5コマ目(サクヤ)が同一人物に見えてしまい、「あれ、これってどっちがどっちだっけ? 誰が話して誰が聞いてたんだっけ?」と、一瞬お話の筋を見失ってしまいました。

いわゆる「百合要素」について

それらしきシーンがあるにはあるのですが、なんだかとってつけたような感じで、「ストーリー上全然必要ないじゃん」と思ってしまいました。「とりあえずこういうのを出しておけばファンは喜ぶだろう」というあざとさすら見受けられ、ゲーム版『アカイイト』のさりげないエロティックさとはあまりにも違いすぎると思います。もしかしてこれ自体が伏線で、後編で何らかのかたちで生きてくるんなら脱帽もんですが、そこまで期待するのは無理っぽいかなー。

まとめ

和風伝奇なストーリー自体は良い感じなんですが、画面構成やキャラの描き分けは今ひとつ。わざとらしい百合シーンなんてなくていいから、後編ではせめてアクションと謎解きで大いに盛り上がってくれると嬉しいです。