石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

『プティ・ア・ラ・モード』(佐野タカシ、大都社)

プティ・ア・ラ・モード (ダイトコミックス)

プティ・ア・ラ・モード (ダイトコミックス)

個人的にはハズレでした。

佐野タカシ氏による18禁エロ漫画集。収録作「Natural Truth」(全4話)が♀×♀物だと聞いて買ってみたのですが、個人的にはハズレでした。以下、ハズレだった理由を述べてみます。

個人的にハズレな理由その1: 男の影がウザい

「Natural Truth」は、由菜と玲生という2人の女のコのセックス込みの恋を描いたお話なのですが、由菜に懸想する矢部くんという男子が出てくるんですね。その矢部の言動が、どうも「女同士の関係を見てハァハァして『オレも混ざりたい』と欲望するような(そして、混ぜてもらえると信じ込んでいるような)ヘテロ男性」めいていて非常にウザいんですよ。以下、矢部の台詞をいくつか引用してみます。

(引用者注:由菜が玲生とつきあっていることを知りながら、にこやかに)「でもいいじゃん! つまり彼氏はいないってコトだよねっ だったらオレが立候補してもいいんだ!!」

何ですかこの図々しさ(p. 44)は。お前は好きな女の子とうまく行ってるときに、「でもいいじゃん! つまり彼氏はいないってコトだよねっ だったらオレが立候補してもいいんだ!!」とマッチョゲイから強引に口説かれても平気なのか?(しないと思いますけどね、マッチョゲイはそんなこと)

この後矢部は由菜と玲生をストーキングしてふたりのセックスを覗き見し(これ自体もすごく嫌ですが)、その後でこんなことを由菜に言い放ちます。

「たしかに彼女とは真剣なのかもしれないケド その気持ちが本当の愛情とはオレ 思えない
男に対して臆病になってるだけじゃないかな? もっと普通の恋が待っている可能性は無限なのに」

なんじゃあこりゃあっ!!(p. 59) 異性間の愛だけが「本当の愛情」で「普通の恋」なんですかそーですか。さらに、人のラブラブな恋路を「男に対して臆病になってる」と一方的に決め付けるとは、自意識過剰もはなはだしいぜ。こういうことを言いたがる異性愛至上主義者ってざらにいますが、まさか、あの『プリティ・タフ』(大都社)を描いた佐野タカシが、こんなださい台詞をキャラに言わせるとは思いませんでした。がっくり。

個人的にハズレな理由その2: 由菜の言動に整合性がない

何よりも嫌なのが、肝心の由菜が矢部に対してまんざらでもなさそうにしていることです。実際彼女は、玲生とのセックス中に矢部のことを思い浮かべて大興奮したりしています。ということは由菜は結局ただのバイセクシュアルまたはヘテロなんでしょうか。でも、それにしては、さんざん矢部をダシにして興奮しまくった後に「由菜はやっぱりレズな女の子です」なんて独白があったりして、整合性が皆無なんですけど。

ちなみに由菜はこの後、矢部とセックスまでして(挿入はともなわないのですが)、しかもそれを大変嬉しがっているので、もうその時点で「駄目だこりゃ」と思いました。いくらそのあと無理やり女の子同士のハッピーエンドにもっていかれても、こんな栗の花臭いシーンを思いっきり肯定的に描かれてしまっては、百合漫画というよりは「バイセクシュアル漫画」あるいは「思春期の一時的な同性愛ごっこ漫画」にしか見えないと思います。

あと、そのエンディングが、『女同士の関係はしょせんテンポラリーなもの』というニュアンスを漂わせまくっているところも大問題。結局これは、レヅ関係を見て興奮するくせに、「でも、最終的には女は男のもとに戻ってくるのだ!」と決め付けて安心したい異性愛至上主義者の妄想を具現化しただけの漫画なのだと思います。つまり、由菜はただの妄想の受け皿であり、レヅ好きだけどホモフォビックなヘテロ男性が喜ぶように喜ぶようにと場当たり的に動く存在なので、言動に整合性がないんですね。

個人的にハズレな理由その3: シチュエーションが『プリティ・タフ』の使いまわしっぽい

  • 例1: 電車内で痴漢に遭う主人公。下着が濡れたのを、女の子に綺麗にしてもらう
    • プリタフだとなりりんが、「Natural Truth」だと見知らぬ男が痴漢するという点だけは異なりますが、あとはそのまんま。
  • 例2: まだあまり親しくないうちに手でイカされて、泣きながら怒るものの、結局好きになる
    • まんま。
  • 例3: ヒロインが、自分はエロい子だと罪悪感を抱き、嫌われたくないと切望しつつ、積極的に身体を開く
    • まんま。

……というわけで、いろんなシチュエーションに既視感が漂いまくりで、あまり楽しめませんでした。

その他

「Natural Truth」以外の収録作は、ショタとふたなりの比率がとても高いです。1編だけ女教師もの(男女エロ)も入ってますけど。

まとめ

「Natural Truth」は、同作者のレズビアン漫画『プリティ・タフ』と比較すると、男の影がウロウロすること・異性愛至上主義が垣間見えること以外には特に目新しい要素がなく、♀×♀関係の熱さやラブ度はかえって下がっていると思います。この作品は結局、「レズ関係に混ざりたい」とか「レズっ娘を寝取りたい」とかいう願望のあるヘテロ男性向けに描かれたお話であって、逆に言うとそういう人以外は避けた方が無難なのではないかと思いました。