石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『TOKYO POP』(井上眞改、司書房)感想

Tokyo pop (TSUKASA COMICS 80)Tokyo pop (TSUKASA COMICS 80)
井上 眞改

司書房 2003-04
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レズビアニズムに肯定的なギャグエロ漫画

とある高校の謎のサークル「解決(怪傑)部」を舞台に繰り広げられるドタバタを描くもの18禁エロ漫画。ストーリーらしいストーリーこそないものの、終始女性同士の愛に肯定的なところが良かったです。高い画力を駆使した独特のエロ描写も面白かった。

ストーリーはないよ

一応、学園の名物女「しぶや」が所属するサークル「かいけつ部」VSそれを潰そうとする生徒会、というありがちな設定はあるのですが、別にそれがお話の本筋にはなっていません。そもそも、かいけつ部が何をやっている部なのかの説明自体ほとんどないので、生徒会がそれを弾圧する理由すらわからないんですよね。ここはひとつ、そんな設定はただのお約束として聞き流し、生徒会会計「福島正美」と書記「大伴つかさ」の絡みのシーン(これがまたたくさんあって楽しいんですよ)を満喫することに専念した方が吉かと。

キャラクタについて

主人公・しぶやの濃さが光っています。あやせ(♀)というラブラブの恋人がいながら「ま いーか」と他の人(♀)とも寝ちゃう磊落な性格が楽しいです。このしぶやというキャラクタがメインにすえられていることで、「女性が女性を好きでセックスすることをあっけらかんと肯定したお話だなあ」と思って楽しく読むことができました。あと、しぶやを篭絡してはベッドに連れ込む謎の保険医「月極院まれに」(♀)先生が、ただのエロい人かと思いきや、実はピンで主役が張れそうな奥深いキャラだったりするところなんかもいいですね。

他のキャラクタは「普段は小汚いがメガネを外すと超絶美少女」「英国からの留学生のお嬢様」「スパイとして潜入したものの、つかまってペットとして飼いならされる美少年」など、わりとテンプレ的な設定が多いのですが、それはそれで十分楽しめました。

エロについて

絡みのシーンはバックに突然花が咲き乱れたり、鰻をイメージに使ってみたりなど、ひとひねりした描き方のものが多いです。画力がとても高い漫画家さんなので(特に女体描写が巧みな方だと思います)、「絡んでいるキャラクタ2人だけを見ればとてもエロティックなのに、一歩ひいてシチュエーション込みで見てみるとどことなくユーモラス」という独特の作風になっていると感じました。「いかにもエロ漫画」的なあけすけなエロが苦手な人でも、これなら読みやすいかもしれません。逆に言えば、あけすけなエロだけを求めている人にはあまり合わないかも。

その他

男女エロはほとんど出てきませんが、一箇所だけ、先述した「ペットとして飼いならされる美少年」の射精シーン(ただし、男性器の描写は皆無)があります。苦手な方は避けましょう。

まとめ

全体的に山もオチもないお話ですが、キャラクタの言動やシチュエーションを楽しむ分には問題ないかと思います。ややポリガマスであっけらかんと女好きな主人公・しぶやを好きになれるかどうかで、この作品が好きになれるかどうかが決まってしまうかもしれません。百合関係に厳格なモノガミーやマゾヒスティックな「禁断の愛」的ストーリーを求める人には不向きでしょうが、あたしのように「女女関係を明るく肯定しているお話が読みたい」というタイプの人にはいいんじゃないかなと思います。