石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

『お願い鈴音ちゃん』(すどおかおる、ワニマガジン)感想

お願い・鈴音ちゃん (ワニマガジンコミックス)お願い・鈴音ちゃん (ワニマガジンコミックス)
すどお かおる

ワニマガジン社 2001-07
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陰陽師もののレズビアンエロ漫画。面白かった!

陰陽師を主人公とする、18禁のレズビアン漫画です。面白かった! 同性愛がどうこうという以前に、まず漫画としてすごく面白かったです。さらに同性愛部分やエロ描写も良かったし、それでいて男性が変に貶められていないところもいい感じ。続きがすごく気になるのに、2巻以降は出ていない模様です。どこかの心ある出版社が出して(つか、すどお氏に執筆依頼して)くれないかなあ。

同性愛者が当たり前のように活躍

主人公「鈴音」は陰陽師の家系の時期当主。女性の恋人「かれん」とつきあいつつ、精霊や神やさまざまなモノノケと戦って「異界の門」を守る、というお話なのですが、まず陰陽師漫画として十分面白いところがよかったです。ストーリーのテンポがよく、サブキャラクタも魅力的で、さらに絵も達者なので、どんどんお話の中に引き込まれてしまいました。

女のコが好きな女のコの話って、ともするとストーリーが同性愛部分にばっかり拘泥しがちじゃないですか。お話の焦点が「これって悪いことなの……?(ぐだぐだ)」/「告白したら嫌われちゃうかも(うじうじ)」/「偏見に負けないエラい私たち(大威張り)」にばっかり当たっていて、それ以外のドラマ要素は皆無、とかさ。

それが悪いとは言いません。でも、飽きるんですよそういうのばっかり見てると。「このキャラクタは同性が好き。それはそれとして(ここ重要)、こういう事件が持ち上がり、そしてこうなるのであった」っちゅーお話だってたまには(いや、本当はもっと)見たい。つまり、「同性愛は、それだけでメインテーマとなるべき特殊な事項!!」みたいな薄っぺらな興奮のもとに描かれた作品ばかりじゃなく、同性愛者が当たり前のように活躍するお話が見たい。たとえば先日レビューした逢魔刻壱氏の「ALMOST HONEST」や「ダメ人間じゃん」(共に『猫飯』(フランス書院)に収録)なんかは、この「同性愛者が当たり前のように活躍する」という点で大変よくできた短編であり、あたしは大好きなのですが、『お願い鈴音ちゃん』は、それを長編連載でやってみせたところが実に偉大だと思います。かえすがえすも、1巻で打ち切りなのが悲しいです。

ホモフォビアもほぼ皆無

ホモフォビアがほぼ皆無なのが嬉しいところ。鈴音は一人称が「オレ」ですが、小さい頃からずっとそうだったという設定があるので、『うる星やつら』の竜之介と同じノリで抵抗なく読むことができました。さらに、鈴音が男性的なのは話し言葉だけであって、セックスではむしろネコだったりするところも好印象。同性愛を描くにあたって、ジェンダーとセクシュアリティがいちいち混同されていない(つまり、『女を好きになる人は中身が男で、男のように女を抱きたいのだ!』みたいなくだらない誤解がない)というのは嬉しいことです。なお、高い画力に支えられたエロ描写もナイスでした。

サブキャラクタについて/男性が貶められていないことについて

桜の宮や霧島小次郎など、一見「女を陵辱するだけの悪漢」っぽい登場をする男性キャラが実はけっこう憎めないヤツだったりするところが面白かったです。ゲストキャラのエロジジイの神様もいい味出してましたし、百合/レズビアン漫画にありがちな「女は善、男は悪」みたいな頭悪そうな決め付けがないところが爽快でした。エロ漫画では編集サイドの要求や読者のニーズにより、♀×♀ものであってもどうしてもヘテロセックス要素を入れざるを得ないケースが多いと思うんですが、それでもこういう風に男性を貶めない描き方に踏みとどまっている作品というのは貴重だと思います。

その他

前述のようにヘテロセックス描写のある作品ですし、かれんに一時的になんか生えるシーンもあるので、そういうのが全部ダメな方は回避推奨。ガチな人としては、「このぐらいの描き方なら、十分同性愛漫画だよー」と思いますけどね(お話のウエイトは、あくまで鈴音とかれんのラブにありますし)。

まとめ

同性愛描写にくだらん偏見や先入観がない上、エロ漫画・退魔もの漫画としてもじゅうぶんに面白い一冊でした。なお、すどおかおる氏は、<コミック百合姫>の姉妹誌<コミック百合姫S>(2007年6月18日発売)に執筆されるそうで、そちらも期待大です。