石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

『ピクシーゲイル(1〜2)』(宮下未紀、角川書店)感想

ピクシーゲイル (1) (角川コミックスドラゴンJr. (KCJ69-4))

ピクシーゲイル (1) (角川コミックスドラゴンJr. (KCJ69-4))

ピクシーゲイル (2) (角川コミックスドラゴンJr. (KCJ69-5))

ピクシーゲイル (2) (角川コミックスドラゴンJr. (KCJ69-5))

ファンタジックなシリアス長編。百合要素も物語もナイス

面白い! 百合がどうこう言う以前に、まず物語としてすごく面白いですよこれ! その上、百合要素もナイスとあって、読んでいてとても楽しかったです。

ストーリーについて

2巻までのあらすじを大雑把にまとめると、こんな感じ。

難病の孤児渡会りかのは、高名な魔法使いゲイル(♂)の心臓を移植されて一命をとりとめる。だが、同時にその心臓を狙う敵に追われることとなる。一方、ゲイルの弟子雷震(ローレイ・♀)は、りかの(の心臓)を守ろうとして獅子奮迅。ローレイに守られることに喜びを感じつつも、彼女の気持ちが自分ではなくゲイルに向かっている(※恋愛感情ではないんですが)ことに痛みをおぼえるりかの。

謎が謎を呼ぶスピーディな展開で、あっという間に2冊を読み終えました。常に読者にちいさな謎を提供し、それが解けた快感を味わわせる一方で、もっと大きな伏線をきちんきちんと仕込んでお話をダイナミックに動かしていくという描き方がいいですね。伏線の張り方と回収の仕方の巧みさという点では、PCゲーム『カタハネ』をちょっと連想したりしました。

絵柄について

表紙だけ見ると一見萌え絵風ですが、それにだまされてはいけません。フタを開けてみれば実に緻密でスタイリッシュな画面構成だし、アクションシーンもダイナミックで見る人を飽きさせません。かと言って萌え度が足りないかというとそんなことは決してなく、ローレイがりかのの胸にキスするシーンなんて綺麗で色っぽくてドキドキもんです。あ、「色っぽい」というのはこの作品全体のキーワードかも。体の線の描き方とか、りかのの頬の染め方とかに、抑制のきいた色っぽさがあってすごくいいんですよ。

女のコ同士の恋について

1巻カバー折り返しに「恋愛っぽいようなそうでは無いような そんなようなものを描こうとしてみました」と作者さんも書かれている通り、単純明快な思春期恋愛ストーリーなんかではありません。りかののローレイに対する想いは恋ともとれるし、天涯孤独な自分に初めて現れた味方に対する愛情ともとれます。けれども、だからといって、りかののこの気持ちがそんじょそこらの百合恋愛モノより薄いとか弱いとかは、あたしには思えません。むしろ逆。2巻pp38-39のりかののモノローグにもある通り、おそろしく「熱くて深い」、読んでるこちらの胸まで痛くなってくるような切ない感情をあまさず描いた作品だと思います。

あと、あたしは先日『お願い鈴音ちゃん』(すどおかおる、ワニマガジン社)のレビューで、「いくら女のコが好きな女のコの話だからって、やたらと同性愛要素のみに拘泥した作品ばっかりだと飽きる。『このキャラクタは同性が好き。それはそれとして、こういう事件が持ち上がり、そしてこうなるのであった』っちゅーお話だってもっと見たい」というようなことを書きましたが、『ピクシーゲイル』はまさにこの、「このキャラクタは同性が好き。それはそれとしてこういう事件が持ち上がり、そしてこうなるのであった」というののお手本のような作品だと思います。主人公の痛いほど切ない気持ちをがっつり描きつつもそれだけでは終わらず、もっと大きな枠組みでお話がどんどん動いていくところが素晴らしいと思いました。

まとめ

ストーリーも絵も感情描写も文句なし。今後の展開が楽しみです。薄っぺらい「好きー☆」「愛してるー☆」だけの百合モノに飽き飽きしている人は『ピクシーゲイル』を読みましょう、ぜひ。