石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『かわいいあなた』(乙ひより、一迅社)感想

かわいいあなた (IDコミックス 百合姫コミックス)

かわいいあなた (IDコミックス 百合姫コミックス)

ほどよく肩の力が抜けた百合短編集

「飄々」というか「淡々」というか、そんな形容が似合いそうな百合漫画短編集。友情ものから恋愛ものまで幅広くカバーした一冊なのですが、どの作品もほどよく肩の力が抜けていて、とてもいい感じでした。主人公がそれなりに激情を見せるお話もあるのですが、それでもやはり、ヘンに力みかえって悲劇のヒロインぶったりしてはいないところが好印象。

なんていうか、この作品集のキャラクタたちは失恋してもいちいち必要以上に自己憐憫に酔ったりしないし、同性との恋が成就したところで、いきなり脳内お花畑状態でバカみたいに舞い上がったりはしていないんですよね。そのあたりが、ナルシシスティックで演出過多な「なんちゃってレズ」系の百合話なんかとは全然違う感じで、たのしく読むことができました。

特に気に入ったのは、まず巻頭を飾る「Maple Love」。サラッと「私は女の子が好きだから」と言い切る宮路も、それにスパっと「いや…気持ちわるくは…ない」と答える楓もいいですね。あとは、表題作「かわいいあなた」。くりかえされる「かわいい」というフレーズがとてもうまく機能しているし、ラストできれいに話が収束しているところも素敵です。外見は男の子っぽいのに中身が乙女な主人公も魅力的でした。

まとめ

女のコ同士の恋だからといって必要以上にテンパった感じのない、楽しい百合短編集でした。これはこの作者さんの初めての単行本だそうですが、次回作もとても楽しみです。