石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

小説『瞬撃のヴァルキリィ』(深見真、エンターブレイン)感想

瞬撃のヴァルキリィ (ファミ通文庫)

瞬撃のヴァルキリィ (ファミ通文庫)

熱さとスピード感に溢れたお話

最悪の生物兵器戦争で荒れ果てた日本を舞台に戦う少女コルセスカの物語。格闘小説としても百合小説としても青春小説としても楽しめる、熱さとスピード感に溢れたお話でした。

格闘要素について

コルセスカをはじめとする遺伝子強化型の超人(獣人)の格闘シーンがド迫力。頭蓋骨は粉砕するわ首はちぎれるわ血や脳味噌はぶちまけるわというすさまじさで、引く人は引くと思うんですが、あたしは「ある意味リアリズムに徹してるよなあ」と感心しながらモリモリ読み進めてしまいました。現実に人間同士の軍隊格闘術だって、目玉に指突っ込んで脳味噌を潰せとか頚動脈を噛みちぎれとか教えてますもんね。スポーツではない殺し合いを超人同士がやったらこうなるよなー、絶対。

あと、筋トレオタクとしてはコルセスカの身体つきの描写も好きです。僧帽筋と背筋が発達してるっていうところなんかいいですよね。素人は大胸筋や上腕二頭筋など、鏡に映して見られる部位ばっかり鍛えてうっとりしたがるものですが、本当に隙なく身体を鍛え上げている人というのは身体の裏側の筋肉こそがすごいものですから。

百合要素について

あからさまな恋愛ものではなく、あくまで友情ともとれるストイシズムをたたえた描き方ですが、それはそれでかえって面白かったです。見ていると妄想補完が発動してドキドキニヤニヤしてしまうという点では、PS2のナイスな百合格闘ゲー『ランブルローズ』を連想したりしました。

特に良かったのは、最初反発していたルシアがどんどんコルセスカに魅かれていくあたりや、コルセスカがルシアに「トーナメントで勝った方が負けた方を好きにできる」という取り引きを持ちかけるところなど。メグミとルシアの心のつながりにも、ほろりとさせられました。

「この世界は、もう少しマシな方がいいと思う」

ルシアにも指摘されてますが、コルセスカにはちょっと青臭いところがあるんですよ。彼女は本気で自分の力で世界を変える気でいますからね。けれど、その想いの熱さや迷いのなさ、そして圧倒的な強さに人は魅了されざるを得ません(ルシアが落ちたのも結局はそれですよね)。凶暴で、一見クールなのに実は中身は暑苦しくて、青臭くてひたむきで、それでも「こいつなら何かやってくれそう」と思わせてくれるようなキラキラした輝きがある、そんな主人公です。

また、コルセスカがぽそりと言う「この世界は、もう少しマシな方がいいと思う」という台詞には、同作者さんの『ヤングガン・カルナバル』『アフリカン・ゲーム・カートリッジズ』にも通じるものがあると思います。「どうしようもないこの世の中とどう戦うのか」という大きなテーマを読む人の胸にずしんとつきつけてくる、手ごたえのある作品です。

まとめ

百合要素はやや控えめながら、少女たちの絆はばっちり。爽快なアクションも熱いテーマも良かったです。戦うおねーちゃん物が好きな方におすすめ。