石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

『あんただけ死なない』(森奈津子、ハルキ・ホラー文庫)感想

あんただけ死なない (ハルキ・ホラー文庫)

あんただけ死なない (ハルキ・ホラー文庫)

恐怖とエロスと同性愛要素の絶妙なブレンド

ホラーとエロスがマーブル模様を描く冒頭のセックスシーンから、奇妙な味の大団円まで、一気に読み進んでしまいました。ただの単純な恐怖小説でもエロ小説でもレズビアン小説(正確には、バイセクシュアル小説)でもなく、それらすべての素材に森奈津子流の味付けをほどこして絶妙の配合で混ぜ合わせた感じ。まるで、飲み終わったとたんにもう一杯欲しくなる美味しいブレンドコーヒーみたいな小説でした。

ホラー要素について

ぺたり。ぺたり。ぺたり。ぺたり。

ネタバレ防止のため詳しくは述べませんが、ここがもっとも怖かったところ。異形のものの姿をはっきりと見せず、音だけで描写するという手法は、下手なスプラッターシーンよりもよっぽど恐怖を煽るものですからね。「番町皿屋敷」で皿を数えるお菊の声や「猿の手」のドアを激しく外側からノックする音なんかと同じ、古典的だけれどとても効果的な「恐怖」の書き方だと思いました。

エロ要素について

のっけから女性が少年の両手首をスカーフで縛って跨って犯すとか、そんなきわどいシークエンスがてんこもり。さすが森奈津子さんの作品だけあって、「男が女の上で腰を振るだけのステレオタイプなセックスで両者大喜び」みたいな退屈なエロシーンは皆無です。陵辱シーンでさえ、同作者さんの『耽美なわしら』をどこか思わせるようなユーモアが効かせてあって、にやりとさせられました。

同性愛要素について

女性同士の絡みのシーンは少ないのですが、この際そんなことはどうでもいい! と思ってしまうほど、バイセクシュアルの女性キャラクタの以下の台詞(pp. 135-136)が光ってました。

一見、理解者のように見える異性愛者にも要注意だ。小雪に同性愛的傾向があると知った途端に、質問してくる者がいる。「あなたはタチ? ネコ?」
タチとは、レズビアン・セックスにおいて能動的な役割を果たす側のこと。いわゆる男役だ。反対に、ネコとは、受動的な女役の側を指す。
二、三十年前のレズビアンならば、このようなタチネコの役割に分けられるカップルが多かっただろうが、現在では逆に、この関係を異性愛者の男女カップルの模倣として嫌悪するレズビアンも少なくない。
ただし、小雪が問題だと感じているのは、その点ではない。小雪が女性とも恋愛すると知ったとたん、どのようなセックスをしているのかといった失礼な質問を相手が平気で口にすることに、小雪は大いなる疑問を感じているのである。
相手が同性愛者であればそのような質問も許されると考える、その無神経さを、小雪は理解できない。
小雪が男性とのセックスでは「攻め役」なのか「受け役」なのか、そこを質問してくる者が皆無だという点にも、それは表れていた。異性愛者に対しては失礼とされる質問が、同性愛者にはいとも簡単に投げつけられるのだ。

おおおおお、わかる、わかりすぎる。こちらが同性愛者だと知ったとたん、「わたしはこんな専門用語だって知っている『理解者』なのよ、えっへん」という顔で「で、あなたはタチ? ネコ?」と聞いてくるノンケっているもんなあ! もしこれが異性愛者相手の会話なら、いきなり「あなたは愛撫するのとされるのとどちらが好きですか」なんて聞いたりしないくせに。親しくもない間柄でいきなり性的なプライバシーを聞き出そうとするなんて、電話口で「奥さん今どんなパンツはいてるの?(ハァハァ)」つって興奮する変態野郎と同じぐらい迷惑だとわかってほしいものです。

そんなわけで、この作品は、異形のバケモノと人間とのかかわりを描いたホラー小説でありながら、同時に「同じ人間なのに、異性愛者からはセックスモンスター扱いされてしまう同性愛者/両性愛者の怒りと哀しみ」をちらりと覗かせるセクシュアリティ小説でもあります。このお話のラストが、「バケモノ=悪、人間=善」という平板な構造になっていないのは、そういったことも関係しているのではないかと思いました。

その他

バケモノの正体の説明が、少しだけ理に落ちすぎているような気がしないでもありません。もう少しぼやけさせた方が、ホラー小説としてはまとまりがよかったのでは。ただし、純粋なホラー作品(恐怖を最大限まで煽るような)を目指した小説ではないようですし、これはこれでありだとも思います。

まとめ

ただ怖いだけでもエロいだけでもない、一言で言うなら不思議な味わいのホラー小説。同性愛要素の扱いもナイス。複雑で滋味に富んだラストは必見だと思います。