石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

『ヒャッコ(1〜2)』(カトウハルアキ、フレックスコミックス)感想

ヒャッコ 1巻 Flex Comix

ヒャッコ 1巻 Flex Comix

ヒャッコ 2 (Flex Comix)

ヒャッコ 2 (Flex Comix)

キャラ立ちまりの女のコたちの微百合コメディ

共学のマンモス校「上園学園」を舞台に、キャラの立ちまくった女のコたちが仲良くバカをやってる学園コメディ。いや、いいわこれ。ガチな♀♀要素は薄いものの、深読みするとかなり面白いエピソードがあるし、なんといっても女のコたちの「仲良し」感の描き方が新鮮なんですよ。可愛いだけじゃなく、力強くて躍動感のある絵もナイス。続刊がとても楽しみです。

深読みするとかなり面白いエピソード「虎に馬」

2巻収録の15話「虎に馬」がとてもよかったです。これは、破天荒な主人公「虎子」のことが気になってしかたない「冬馬(とうま)」(女子)のお話なんですが、友愛とも淡い恋心ともとれる気持ちを押し隠そうとして全然隠し切れていない冬馬の姿がたいへんキュート。……というと、いわゆる揺れる乙女心を描いたチープな少女漫画みたいなノリかと思われそうですが、そういうのじゃないんですよ。もっとパワフルで、もっとお馬鹿で、もっと可愛いお話です。ちなみにお話の枠組みには、

  • 冒頭に出てくる印象的なシークエンスが、お話の中でもう一度登場する
  • 二度目になって初めて、それがきわめて重要な場面であることがわかる

という映画や小説によくある手法が使われているのですが、二度目の方では冒頭と同じ場所の同じ会話がまた違った角度から描かれているところが興味深いです。また、そこからつながる虎子と冬馬の過去のエピソードもぐっときます。頬染める冬馬の想いを友情ととるもよし、深読みして「恋」ととるもよし。

「虎に馬」がもっとも百合っぽい理由

実は『ヒャッコ』の♀♀要素は「虎に馬」だけではありません。というのは、作中にバイセクシュアルを自称する女のコがいたり、女性同士の偶発的なキスシーンがあったりするからです。が、それらよりは上に挙げた「虎に馬」の方が百合っぽい(ここでは『女のコ同士の関係に肯定的っぽい』ぐらいの意)とあたしは感じました。理由は以下の通りです。

  • バイセクシュアルキャラの「子々」(ねね)の言動には「バイセクシュアル=淫乱」というバイアス香がする(個性の範疇と取って取れないこともないのですが。うーむ)
  • 女のコ同士のキスシーンでは、された側がはっきりと嫌がっている(した側の意図は不明)

この作品が特に異性愛規範べったりだというわけでもないと思うんですよ。それは、唯一はっきりと異性愛を全面に打ち出している男性キャラが、写真でしか知らない相手をいきなり偶像化して「マイエンジェル……」とうっとりする「バカヤロー」(p130)として描かれていることから見ても明らかです。つまり『ヒャッコ(1~2)』においては、同性間の愛情も異性間の愛情も基本的に「どことなくコミカルなもの」として扱われているわけで、その中で珍しく頭ひとつ抜けているエピソードが上記「虎に馬」であるとあたしには読めました。

その他の良いところ

この作品で他にすごくいいなと思うのは、女のコ同士の仲良しな関係がパワフルかつポジティブなものとして描かれているところ。どのエピソードをとっても、「女同士の関係は陰湿」だの「女の友情は儚い」だのというくだらないステレオタイプがないんですよ。シナリオの良さだけでなく、虎子をはじめとする登場人物の強烈な個性、そして力強く躍動感のある絵柄などがあいまって、このように痛快なお話になっているのだと思います。

まとめ

百合漫画としてはやや薄口なのですが、あたしにはすごく面白かったです。キャラたちの個性や独特の雰囲気がある絵柄も良かったし、スラップスティックな学園コメディとしても充分楽しめました。