石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

『レズビアン 少女愛』(千之ナイフ、青林堂)感想

レズビアン 少女愛 (EDEN SELECTION)

レズビアン 少女愛 (EDEN SELECTION)

美しい奇譚集

レズビアン漫画としてだけではなく「美しい奇譚集」としても楽しめる短編集。緻密な絵で展開される官能描写には「全年齢向けでここまでやっていいのか」と驚かされますが、それでいてエグさや下品さがないところもまたいいです。男性が絡む話も何本か収録されていますが、それらにしても、心が(いや、身体もですが)しっかりと最愛の女性の方を向いている話ばかり。タイトル通り、まさしく女性が女性を愛するお話ばかりを集めてみせた見事な一冊だと思います。

素敵な大嘘に騙される楽しさ

フィクションの「トンデモ話」と「奇譚」の境目はどこにあるのだろう、と時々考えます。で、思うのですが、同じ突飛な設定を使っても、「こんなのあるわけないじゃん」と最後まで読者が冷めたままなのが「トンデモ話」、「こんな嘘ならむしろ歓迎、どんどん騙してほしい!」と魅了されてしまうのが「奇譚」なんじゃないでしょうか。そして、この『レズビアン-少女愛』は、まさにそういった「奇譚」が目白押しなんですね。

たとえば「水の街」。日本になぜかヴェニスのような水上都市があって、人々はボートで移動するという不思議な設定なのですが、その街にいるとされる「水神様」の存在がオチにうまくつながっていて、思わず納得させられてしまいます。また「蜘蛛夫人」では、一部医学的にありえない展開があるものの、「その人がなぜそんなことをしたのか」という謎解きの部分に胸に詰まる切なさやかなしさがあり、「もうこの設定は、これはこれでありだ!」と途中からコロリと宗旨替えさせられてしまいました。というわけで、素敵な大嘘に騙される楽しさを味わいたい方には特におすすめの一冊だと思います。

男性が絡むお話について

男性キャラが登場するのは、全7編中4編。非常に興味深いのは、オスオスしい男性はほとんどすべて悪役として描かれていることです(ごく稀に肯定的に描かれている男性キャラは、女性と見まごうばかりの線の細い美形だったりします)。ちなみに、「悪役」の男性については、エロゲやギャルゲの男性キャラよろしく顔の描写があまりない(目のところが影になっていたり、メガネで目が隠れていたりする)というのも面白いですね。深読みするなら、これらの表現は「特定の個人ではなく、男性性そのものが『少女を苦しめる“悪”』である」というメッセージを暗示しているとも取れると思います。いや、単純に「野郎の顔など見たくない」というニーズに対応しているだけという可能性もありますけど。いずれにせよ、「女は結局男の方がイイんだよげへへ」みたいなだっさい展開がひとつもなく、どの話もきちんと女性同士の愛を描いてくれているところに満足です。

まとめ

不思議で美しい物語が詰まったレズビアン漫画集。ありえないような設定が「素敵な大嘘」となって上手に読み手を騙してくれるお話が多く、非常に面白かったです。男性キャラの扱い方も異性愛中心主義的ではなく、楽しく読めました。