石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『放課後の国』(西炯子、小学館)感想

放課後の国 (フラワーコミックス)

放課後の国 (フラワーコミックス)

意外なところに百合話

同じ高校に通う男4人女1人がかわるがわる主人公を務めるオムニバス短編集。百合話があると聞いて読み始めたのですが、絶っっ対にヘテロ話だろうと思ってた1本がそれだったので、「おおおおお、ここでこう来るかー!?」とウケました。あの急転直下で話の方向性が変わっていくところのスピード感、好きだなあ。特に、自分の恋心にようやく気づいたキャラクタが、

…なんでこんな気持ちになるの

…会いたい

会えないと息も浅くなるわ

と、好きな女のコのもとへと全力疾走していくシーン(p126)なんて最高。頭で「好き」とかなんとか考えるのではなくて、身体で「会えないと息も浅くなる」と発見するという、このリアル感。たぶん彼女の想いは成就しないだろうし、しても長続きしないかもだし、おとぎ話みたいな「そしてふたりは末永く幸せに暮らしました、めでたしめでたし」なんてこともなさそうだな、という雰囲気はあるんですよ。でも、この恋心に気づいて駆け出していく瞬間の尊さというのは、そんなことでは1ミリたりとも揺らがないと思います。そこが、とてもよかったです。

その他のお話について

ヘテロ恋愛あり、男同士のちょっと濃い友情あり、といった感じ。全体としては「クラスのあぶれ者たちの、ちょっとひとクセある愛と友情の青春話」といったトーンの一冊です。

まとめ

百合話は1話だけ、しかもラスト数ページで話が突然そちらの方向に行くというものなので、いわゆる「百合ん百合ん」ないちゃラブ話が目当ての方には向かないと思います。けれど、「百合話も入ってる青春群像劇」という路線がOKな方なら、おすすめ。個人的には、あのクライマックスでの気づきと全力疾走のためにだけでも買って惜しくはない一冊だと感じました。