石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

小説『白蝶花』(宮木あや子、新潮社)感想

白蝶花(はくちょうばな)

白蝶花(はくちょうばな)

戦前・戦中・戦後の女たちの愛を描く一冊(百合あり)

デビュー作『花宵道中』でお江戸の女郎たちの愛とかなしみ(百合含む)を、そして『雨の塔』で現代物の百合話を描いてみせた宮木あや子さんの新作です。今回は第二次世界大戦前後のお話なのですが、四編の短編が複雑に絡み合い、秘めやかに『雨の塔』ともつながったサーガとなっています。百合話としては、書き下ろし作「乙女椿」がそれはそれは良かったです。鮮烈なまでのエロティシズムと、単なる女のコ同士のいちゃラブを超えて「その先」を描いてみせる筆さばきに惚れ惚れしました。

「乙女椿」について

「どうして嫌がらないの?」
指を口の中に入れたまま、和江は尋ねた。指が口の中にあるので、千恵子は喋れない。
「嫌じゃないの?」
つづけて和江は尋ねる。相変わらず指は口の中に入れたまま。檸檬の香りが薄れ、溜息二つ分くらいの沈黙ののち、和江は千恵子の口から指を引き抜いた。唇の端に唾液の糸が引き、窓の外では益々の勢いで蝉が鳴いている。

はい、こういうお話でございます。ちなみに千恵子は女中、和江はお嬢様。上に挙げた場面以外でも、蝶の羽、犬の首輪、乙女椿の花などを使った美しくもきわどいシークエンスが目白押しです。キスシーンなんかもしっかり出てきます。

すごくいいなと思ったのは、このお話は単にふたりが乳繰り合って終わりではないところ。というのは、この後千恵子は好きな男ができて身籠るし、和江は和江で結婚したりするからです。でもそこで「男が出てくるなんて百合じゃない! ムキー!」と怒るのは早計というもの。大空襲で燃える街の中、切迫流産の危機を顧みずに「お嬢様」をかついで逃げることが君はできるか。それが愛じゃなかったら、何だと言うのだ。

オチは伏せておきますが、「タイガーリリー」(タカハシマコ著『乙女ケーキ』に収録)がお好きな方はぜひ、とだけ。ちなみにあたしはシチュエーションだけでなく、ラスト2行の心憎さに悶絶しまくりました。これだからこの人の小説を読むのはやめられないわー。最後の最後で乙女椿と呼応するかのように登場するあの花の名前も、かつての和江と千恵子の会話を思い出させてよかったです。

『白蝶花』全体について

愛と毒が必ず同時に存在する、というのが四編全部に共通した特徴かと。浮気相手が殺され、命からがら逃げるはめになったり、自分を囲っている男の息子と通じて妊娠してしまったり、惚れた相手があっさり戦死したりと、『白蝶花』に登場する女たちの人生は、どれも波瀾万丈です。和江と千恵子の関係以外に、女学校での「エス」もいくつか登場しますが、それにしたって片方に男が出来たり、親から見合いをさせられて終わったりと、どれもうまくいかないことこの上ありません。

けれども、そんな中でもしたたかに立ち上がってくる想いこそが愛だったりするわけですよ。これについては、この本の序文がすべてを言いつくしていると思います。

白蝶花(はくちょうばな)【アカバナ科・ヤマモモソウ属】

よく撓る花茎に白や薄紅の、親指くらいの小さな花をたくさん付けます。
風に吹かれると、あえかな白い蝶々が舞っているように見えます。
花はすぐに枝から落ちてしまいますが、次の日には新しい花が咲きます。
花茎が倒れても、枯れずに次々と花を咲かせつづけます。

本当にこの通りの愛のかたちを描いた一冊でした。

まとめ

儚げに見えて実はしたたかな、女たちの愛と官能を描く一冊でした。百合話も男女話も、とてもよかったです。