石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『マーメイドライン』(金田一蓮十郎、一迅社)感想

マーメイドライン (IDコミックス 百合姫コミックス)

マーメイドライン (IDコミックス 百合姫コミックス)

レズビアンからノンケへの恋を、「人魚姫」をモチーフに表現

収録作8編を大雑把に分けると、

  • レズビアン(または、レズビアン傾向のある女子)からノンケへの恋を描いたお話
    • 例:「めぐみとあおい(1~3)」「ゆかりとまゆこ」「おんなのこ*おんなのこ」「三浦さんと私」など
  • MTFレズビアンのお話
    • 例:「ゆかりとまゆこ(1~2)」

の2種類に分類することができると思います。あちこちのレビューを読むと後者を珍しがる声が多いようですが、あたしはむしろ、前者の方に新味を感じました。特に「めぐみとあおい」シリーズの、人魚姫をモチーフに使うというアイディアが面白いと思います。いくつかひっかかる点もあり、全体としてはおすすめの1冊とは言い難いのですが、詳しくは後述。

1. 「めぐみとあおい」シリーズについて

1-a. よかった点: バカな王子とバカな人魚姫のフェアな関係

「めぐみ」は人魚姫のようなふわふわロングヘアーのレズビアンで、ノンケの「あおい」に片想いをしています。で、童話「人魚姫」について、彼女があおいに語る台詞(pp16-17)がこれ。

知ってた? あおい…この物語って同性愛のお話なのよ
恐ろしい魔女と取り引きをして 人魚姫は王子様の側に行くために声を失うでしょ?
相手に想いを伝えられなくても良いから側にいたいと思ったの
同性愛のほとんどは伝えてしまったらおしまいなのよ
このお話と一緒で“悲恋”になってしまうの
ずっとそばにいたいのなら ずっと友達でいなくちゃいけないのよ

これだけなら、単なる「秘める恋の美化」とも「同性愛者の自己陶酔」とも取れてしまうと思うんですよ。が、このお話はここで終わりません。結構シビアな紆余曲折を経た後、人魚姫というモチーフを再びうまく使って、

  • 「人魚姫の想いに気付けないバカ王子」⇔「それでも溺れる王子を救って恋をするバカ人魚姫」

という図式が、実は

  • 「同性愛者の想いに気付けないバカノンケ」⇔「それでもノンケに恋をするバカレズビアン」

という図式と似ていることを示し、結局どっちもどっちであること、それでも仲良くしていることが大切なんだということを描き出す着地点にソフトに到達します。単なるノンケ糾弾や悲恋萌えに終わらないこの描き方は新しいなと感じました。

1-b. ひっかかった点: 「伝えてしまったらおしまい」という決めつけ

めぐみの「同性愛のほとんどは伝えてしまったらおしまい」以下の発言にまったく共感できません。だって、これじゃまるで、同性愛者の恋愛のほとんどがノンケ相手の「かなわぬ恋」であるかのようじゃないですか。でも実際には、同性愛者は最初から異性愛者を恋の対象にしないことの方が多い(※行動範囲がまだ狭い10代のうちは別かもですが、10代の恋だけが同性愛の全てだと思われても困る!)ので、これは事実誤認もはなはだしいと思います。そもそも、わざわざノンケを好きになっておいて大変ぶる同性愛者というのは、わざわざ既婚者を好きになっておいて大変ぶる異性愛者と同じぐらいアホだとあたしは思うので、あたかもそんな人が同性愛者のスタンダードであるかのように語られるのは大変迷惑だと思いました。

2. MTFレズビアンのお話「あゆみとあいか」「あゆみとあいか2」について

2-a. あらすじなど

MTFの「あいか」が、男性だった頃に付き合っていた恋人「あゆみ」と今度はレズビアンとしてラブラブにつきあうというお話。ごくごく順風満帆なラブストーリーであり、『マーメイドライン』について語られるときにこの話ばかりが取り沙汰されがちなこと自体が不思議だと感じました。そんなにMTFレズビアンの存在自体が珍しい(と思っている)んでしょうか、マジョリティの皆様は。

2-b. ひっかかった点: 「純女同士だとハッピーエンドはない」という謎の前提

片方が「元男」だとこうもあっさり恋やパートナーシップが成立する(実際、『あゆみとあいか2』のラストでは、結婚や子作りの話まで出て平和に盛り上がっています)のに対し、前述の「めぐみとあおい」を始め、純女同士の物語では全て最初から「女性同士の恋=成就しない」という前提が強固に設置されてしまっている(そして、決してくつがえされない)のは何故なんでしょう。たとえば、レズビアン傾向のあるOL「ゆかり」からヘテロ友人「まゆこ」への恋心を描いた「ゆかりとまゆこ」におけるこの台詞(p101)なんか、ひどいですよー。

やっぱり私は 同性愛の恋にまゆこの望むようなハッピーエンド(引用者注:『底抜けに明るくて読んでて幸せになる』ようなハッピーエンドのこと)はないと思う

これって、あたしみたいな現実の同性愛者に向かって「おまえらには永遠にハッピーエンドなんて来ない」と喧嘩売ってるも同然だと思うんですけど。そんなに純女同士はダメですかそうですか。そんなこんなで、総合すると、「同性愛に理解あるふりをしつつ、実はベタな偏見を露呈している1冊」だなあと思いました。

まとめ

「人魚姫」というモチーフの活かし方や、MTFレズビアンという要素を取り込んだところなんかは面白いのですが、全体としては「同性愛に理解あるふりをしつつ、実はベタな偏見を露呈している1冊」だと思います。個人的には、あまりおすすめしません。