石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

『色恋寓話』(石田拓実、集英社)感想

色恋寓話 (マーガレットコミックス)

色恋寓話 (マーガレットコミックス)

女のコから女のコへの、凛とした片想いが出てくる少女漫画

大学生の女子3人男子1人が順番に主人公をつとめる、オムニバス形式の恋愛群像劇。うちひとりの女子「真雪」がもうひとりの女子「史緒」に片想いしているという設定です。ちなみに真雪の恋は、真雪が主役の第2話「白雪ちゃんの純愛」でがっつり描かれるのみならず、それ以外のお話にも何回か登場します。ステレオティピカルな「同性愛者の悲劇」路線にも、ありがちな「思春期ならではの儚い憧れ」路線にも陥らない、凛とした“想い”の描写がとても良いと思いました。

真雪が主役の第2話「白雪ちゃんの純愛」について

恋を自覚するシークエンスに説得力あり

「白雪ちゃんの純愛」は、真雪と史緒のなれそめを回想する物語。まず、真雪が当初敵視していた史緒への想いに気づくこの場面(p58)が、すごくよかったです。

――あたし 斉木史緒の声なら すぐにきき分けられる
下品な声だからだと思ってた
……ああ そうだ やたら目についたのも
嫌いだからじゃなくて
目ざわりだからでもなくて――
目で追っていたのは私の方だ!

こないだレビューした『放課後の国』(西炯子、小学館)なんかもそうですが、頭で考えるより先にまず体が好きな人に反応しているというところに説得力があるなあと思いました。さらに、惚れたら惚れたでいきなり脳内お花畑チックなラブラブ状態に突入するのではなく、

「覚悟をきめるのにたっぷり3週間は悩みぬいたわよ?」
「色々な本を読んだりして」
「今考えると ばかばかしい話だけどね」

という後日譚(真雪談)がしっかりついてくるあたりも、地に足がついている感じでよかったです。

片想いの描写がフェア

冒頭にも書きましたが、真雪の恋は片想いです。本人も自分の恋が前途多難であることを自覚しつつ、「今の状況に不満はないのよ?」と鮮やかに微笑んだり(p85)しています。そういう意味では、ある意味、最近レビューした『マーメイドライン』(金田一蓮十郎、一迅社)の「めぐみ」や「まゆこ」のような立場にいる真雪なのですが、ここで『マーメイドライン』とは徹底的に違う点がひとつ。

『色恋寓話』では、真雪の恋がうまくいかない理由として「『同性愛の恋は』うまくいかない/ハッピーエンドはない」などという差別的なステレオタイプが持ち出されていないんです。真雪が片想いなのはあくまで史緒が(おそらく)ヘテロセクシュアルで、今のところ真雪の想いにも気づいていないせい。これはすごく当たり前で、フェアな描写だと思います。真雪自身も「同性同士だから」なんて理由で賢しらに悲劇ぶって諦めたりせず長期戦覚悟で構えており、そこがとてもいいと思いました。

その他のお話における真雪の恋について

どの話でも真雪の恋は時に切なく、時に微笑ましく描かれています。もっとも印象的だったのは、第4話「はだかの王子様」における描写です。これは、史緒の元カレにして真雪の現カレ(でも実はどちらともキスすらしてないし、真雪の史緒への想いも知っている)・「高見」が主人公となるお話。史緒をめぐっていろいろあった後、

……高見はいいわよね 最初から男で生まれてきてるもの
私が男だったら 家まで送るのは私なのに

と珍しく弱気になる真雪への高見の切り返し方(p144)がとにかく最高でした。よくある「同性愛者は可哀想」路線からは百万光年ぐらいかけ離れた、いっそ気持ちがいいほどに身も蓋もない台詞なんですよ。こんなところにも、この作品のフェアネスを感じましたね。

まとめ

レズビアニズムの扱い方が非常にフェアな1冊。恋愛物としても秀逸でした。わりあい古い本(1998年発行)なので、見つけたら即買いしておくことをおすすめします。