石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

『セックスのあと男の子の汗はハチミツのにおいがする』(おかざき真里、祥伝社)感想

セックスのあと男の子の汗はハチミツのにおいがする (Feelコミックス)

セックスのあと男の子の汗はハチミツのにおいがする (Feelコミックス)

百合というより「どうしようもなくヘテロっぽい」1冊

タイトルからてっきりヘテロ物だと思いこんでいて、その後「百合だ」という噂を聞きつけてあわてて読んでみて、読んだらやっぱりヘテロ物だ(とあたしは思)ったというややこしい1冊。たしかに表題作には同性へのかすかな欲望めいたものを感じる主人公が出てきたりしますし、全3話の「雨の降る国」には女性同士のセックスさえも登場するのですが、それでもこれらはレズビアン/百合物とは言い難い――言い換えるならば、どうしようもなくヘテロっぽい話だ、と思うんです。
あたしがそのように思った根拠は、

  1. キャラクタたちの心のベクトルが、かなりのウエイトで異性の方を向いていること
  2. キャラクタたちが「男」と「女」を常にセットにして考えていること。

のふたつ。まとめると、「女のコ同士の関係性を構築するにあたって、いちいち『男』をダシにしなきゃならないあたりがヘテロ臭い」ってことなんですけど。以下、それぞれの作品について考察していきます。

「セックスのあと男の子の汗はハチミツのにおいがする」はレズビアン/百合作品ではないとあたしが思うわけ

この短編のストーリーは、「男嫌いのいとこの女のコを居候させるうちに、主人公も男性の恋人への嫌悪感を感じ始め、いとこの女のコへの淡い欲望(?)を感じるようになっていく」というもの。読んでいて非常にひっかかったのは、いとこが男性(いとこの言葉を借りて言うなら、『ちがう生き物』)について言うこの台詞(pp16-18)です。

指が太くて足も腕も太くて毛がはえてて 声が大きくてがさつな大きさで その声でウソをついたり自分のことをしゃべったり自分のことだけ しゃべりたがったり するけどそれは本当?
甘えたり その太い指や声で すねてみせたり上になったり下になったり こっちの気持ちを放り出したり投げつけたり ちがう生き物は 汚いでしょう?

これってレズビアニズムでもなんでもなくて、ただのミサンドリー(男性嫌悪)ですよね。おまけに全部、言いがかりに近いと思うんですよ。なぜなら、指や声の太さや体毛なんかの話を抜きにすれば、女だってこういうタイプの人は山のようにいるからです。

高い声で「ウソをついたり自分のことをしゃべりたがったり自分のことだけしゃべりたがったり」し、細い指や声で「甘えたり」「すねてみせたり上になったり下になったり こっちの気持ちを放り出したり投げつけたり」する女性なんていくらでもいるでしょう。当然、レズビアンにだっていますよ。それなのに、こうした悪いふるまいがすべて男性固有のものであるかのように決めつけて、女同士の関係にうっとりと憧れるっていうのはどうなのよ。それって、所詮は男性のことが気になって仕方ない異性愛者の現実逃避であって、つまりは屈折した異性愛でしかないんじゃないの?

もうひとつ気になるのは、「男性を嫌悪する→女性に魅かれる」という一連の流れが安直すぎること。男性と付き合うことをやめるにしても、「オナニストになる」「Aセクとして生きる」「フェティシストになる」等々、エロスの行先はいくらだってあるわけですよ。もっと言ってしまえば、性別というのは実はグラデーションになっているから、人類を「男」「女」の二種類だけでとらえること(性別二元制)自体が実はおかしいわけ。それなのにいきなり「男がダメなら女」と何のためらいもなく移行してしまうこの作品には、「男」と「女」を常にワンセットにして考えたがる、きわめて異性愛者っぽい発想が漂っていると思います。そういうわけで、これがレズビアン/百合漫画だとはあたしにはあんまり思えませんでした。

「雨の降る国」はレズビアン/百合作品ではないとあたしが思うわけ

こちらは女子高生「久美」と親友で不登校の「加也」、そして加也の兄との奇妙な三角関係を描く物語。久美と加也は終始仲良しだし、セックスもするんですけれども、あたしはこれはレズビアニズムではないと思いました。なぜなら、このふたりの気持ちは常に「加也の兄の気を引くこと」に向かっているからです。女のコ同士の居心地良く官能的な空間は、ふたりにとってはそこから加也の兄にちょっかいを出すための安全圏に過ぎず、要するにヘテロセクシュアルにとっての都合のいい逃げ場所でしかないんですよね。

女のコ同士の空間が便利でしかも一時的な逃げ場所として扱われていることは、それが「甘い甘い不思議な場所」「女の子の王国」「期限つきのアソビ」などと形容されて美化されていることなどからもわかります。けれども、女のコ同士だろうと異性同士だろうと、相手とまともにぶつかり合って恋をすればそんなちゃらけた寝言なんか言っていられるはずもなく、要するにこれは「ヘテロが妄想するところの、理想化された『なんちゃってレズ』状態」なんだろうなと思いました。同性とセックスすれば即同性愛ってわけでもありませんしねー。

まとめ

女性が女性への淡い欲望を覚えたり、実際に同性同士でセックスしたりするお話は含むものの、この1冊の根底にあるのはあくまで異性愛でしかないと思います。というわけで、レズビアン漫画/百合漫画をお探しの方には、あまりおすすめしません。