石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

『疾走する思春期のパラベラム 心的爆撃』(深見真、エンターブレイン)感想

疾走する思春期のパラベラム 心的爆撃 (ファミ通文庫)

疾走する思春期のパラベラム 心的爆撃 (ファミ通文庫)

緊張感の高まる一冊

パラベラムシリーズ第4作。乾燥者(デシケーター)と人類の間の緊張感がいよいよ高まってきている1冊でした。死体の数も増加の一途をたどっているのに、学園祭準備という青春っぽさや志甫のアホさが奇妙にバランスして、全体としてはきっちりライトノベルしている感じだと思います。

睦美が大きくクローズアップ

今回はミステリアスなレズビアンキャラ・睦美が大きくクローズアップされ、彼女の過去の恋と、パラベラムになったいきさつが明かされます。相変わらず同性愛関係の描写がきめ細かくて、睦美の本棚にサラ・ウォーターズとローリー・キングとサンドラ・スコペトーネが並んでいたりするのが楽しいところです。また、彼女の恋愛話についても、「背徳」「禁断」「お姉さま」「女のコ同士なのにこんなこと……!(うじうじ)」みたいな阿呆なステレオタイプが一切出て来ないところも爽快。パラベラムシリーズは以前からそうですが、異性愛者の中に当たり前のように同性愛者がいて、当たり前のように同性と付き合ったり別れたりしてるという描き方がいいなあと思いました。睦美の意外な弱さなんかも、よかったです。

戦闘ならぬ銭湯シーンでの睦美の悩みに勝手に答えてみるテスト。

以下は銭湯での睦美のモノローグ(pp141-142)。

睦美は、ふと男湯と女湯のことを考えた。当たり前のように男女に分かれるが、このシステムは睦美と同じタイプの人間が増えてきたらどう変わるのだろうか?

志甫は、無防備に裸体をさらしている。睦美は、志甫に自分のセクシャリティについて話したことがない。なかなか話すいいタイミングがないし、それが必要なことかどうかもよくわからない。とにかく、相手が知らないことにつけこんで、こうして志甫のしなやかで無駄のない肉体を盗み見るのはどう考えても悪い気がする。これは、ただの考えすぎなのだろうか? 考えれば考えるほどわからなくなってくるので、睦美はもっと経験豊富な大人からのアドバイスが欲しくなった。

(経験豊富かどうかは謎だけど)わたくしのアドバイス:「大丈夫! 江戸時代は男女ですら混浴だったんだから!」

何によって欲情するか、というのは文化によって規定されるもので、つまりは学習によってどうにでも変わるものですよ睦美さん。自分の性的指向の対象となる人間の裸体を見たら即スイッチが入ってハァハァ、というのも別に不変の真理ではなく、この時代と場所ではたまたまそういう文化があるというだけのことです。異なる文化的枠組みの中では、その行動様式は発動しません。事実、現代日本でも、混浴の温泉でいちいち興奮して見知らぬ他人に襲いかかる人ってそうそういませんよね。あれは、「この場所ではこのように(いちいち欲情しないように)ふるまうものだ」という文化的規定によるものです。

というわけで、今後同性愛者が増えたら増えたで、現代の混浴温泉と同じような、「風呂で他人の身体をジロジロ見たり、ましてや欲情したりするのはマナー違反」という文化的枠組みが淡々と場を支配するだけじゃないですかね。つか、現在であっても、そのようにふるまえない馬鹿な同性愛者は自粛して家でユニットバスにも入ってろってことでファイナルアンサー。

その他印象に残ったところ

銭湯話が長くなってしまったので、以下、印象深かったところや面白かったところを箇条書きで。

  • 「あなたは、私が――」「『私が殺したはずなのに』」
  • 「気づいてる? 怒ったあなたは、普段よりもずっと弱く見える」
  • (つまるところ、俺が弱いからだ)
  • 「かわいそうな子は目の前にいたんだな……」
  • 志甫が熱唱する「びっくりどっきりメカ」
  • 同じく志甫が熱唱する「キンポー岬」。ちなみにキンポーとは「世界一動ける太い人」サモハン・キンポーのこと。
  • 一兎が直面するあの人のトラウマが怖い。1巻のレビューで「不幸の度合が軽い」とか書いちゃってごめんよごめんよ一兎。彼の不幸ったらしさ、というか、単に強いだけのヒーローではないところがこのシリーズの大きな魅力だと思います。

まとめ

実は、ここで変にまとめを書こうとするより、表紙を見てもらった方が早いかも。この表紙が、中身のすべてを物語っていると思います。なぜ睦美は少し哀しそうな顔で<P・V・F>(右手の兵器)を展開させているのか? なぜ、不治の病の美玖が、包帯姿で立ち上がっているのか? そして、なぜ一兎は暗い表情なのか? 答えは全部、本編の中にあります。ピンと来た人は本屋へゴー。