石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

『ひなぎく純真女学園(1)』(ふくやまけいこ、徳間書店)感想

ひなぎく純真女学園 (1) (リュウコミックス)

ひなぎく純真女学園 (1) (リュウコミックス)

ふくやま流ほのぼの(でも愛は熱い)百合4コマ

「ふくやまけいこ初の百合漫画」と聞いて、「そう言やエリスとアメリア(『ゼリービーンズ』の)の結びつきもある意味百合っぽかった」と思い起こすオールドファンのわたくしですが、あまりにもベタなタイトルに不安を感じなかったと言えば嘘になります。が、蓋を開けてひと安心。中身は全然ベタなんかじゃない、新鮮そのもののラブい百合4コマでした。主人公「樫宮(カシミヤ)アミ」から同級生「木成(キナリ)ユイ」への想いの熱さと、全体を包むほのぼの感がたまらんです。サブキャラのオタク娘「マーヤ」の活躍もよかった。

全然ベタなんかじゃない新しさ

学園ものの百合作品というと、

  • 平凡な下級生が素敵な上級生に憧れる
  • フェミニンな主人公が王子様のようなボーイッシュ女子に憧れる
  • 友達同士なのに実は好き、でも嫌われるのが怖くて告白できない

みたいなパターンがやたら多いと思います。それが悪いとは言わないけど、そればっかりっていうのはあまりにも退屈だと思いません?

その点、『ひなぎく純真女学園』は新鮮です。主人公アミはお嬢様で優等生で何でもできる人気者。かたや、アミの想い人・木成さんは常時学校ジャージ着用、お下げにメガネ、好きなものはおにぎりという超素朴派。好きになったきっかけは、「おにぎりをくわえて走る木成さんと廊下で激突したこと」、ただそれだけ。木成さんに惚れてからというもの、仲良くなりたいのに緊張しすぎて挙動不審になってしまい、アミは万能だと思っていた自分の意外な無力さに打ちのめされます。

これって恋愛の暴力的なまでの理不尽さをよく表していると思うんですよ。恋とは、ある日突然交通事故のように出くわしてしまうもの。そして、努力でも才能でもどうにもならないもの。どんなに優れている(ように見える)人だって、恋愛の前では己を虚しゅうしてひれ伏すしかないわけで、そこに恋のおかしみとか尊さとか残酷さとかがあると思うんですよ。男女恋愛物では古来何度となく描かれてきたこのテーマを、女のコ同士でやるっていうのは新しいなと思いました。

アミの想いの熱さ

これはもう、各話のサブタイトルを見るだけで一発です。試しに最初の数話分を抜きだしてみると、こんな感じ。

  1. 木成さんは可愛い生きもの
  2. 木成さんは繊細で素朴で可愛くてそして優しいんだ
  3. 木成さんと××は月とスッポン アトムとコバルト
  4. 木成さんはいいかおりで物知りなんだ
  5. 木成さんの代りにアルバイト!

終始この調子でアミから木成さんへの愛がスパークしています。もちろんアミの目に恋愛フィルタがかかっていてあばたもえくぼに見えてしまうということもあるのですが、周囲の語る木成さん像(『大まか大雑把無造作』)とのギャップに気づいても、

みんなには木成さんがそんなふうに見えてるの? 木成さんの良さがわからないの?

と一瞬ショックは受けるものの、次の瞬間

ライバルゼロ?

と頬染めて喜んでしまう彼女(p64)にいったい何が言えましょうや。こんなところもまた、恋の魔力を表していると思うんですよね。

全体を包むほのぼの感

キャラクタの名前が布地関係で統一されていて、しかも名が体を表しているところが興味深かったです。お嬢様な主人公は樫宮(カシミヤ)、素朴なジャージ娘は「木成」(キナリ)、絢爛豪華な雑学知識を持つオタク娘は「西陣(ニシジン)」、はっきり見えない幽霊は「王願寺(オーガンジー)」といった具合で、お話全体を包み込むふわりとした雰囲気はこんなところからも来ているのかもしれません。毎回繰り返される冒頭の夢オチ→廊下での衝突というパターンが醸し出す様式美や、嫌味のない各種パロディなども、ほのぼのした楽しさがあってよかったです。

オタク娘マーヤが光る

オタク娘マーヤの活躍がお話全体をひきしめていているところが面白いです。特に、「ひなぎく」というベタな校名を他校の男子に

お嬢さま学校の子はきどってんな ひなぎくなんて名前からしてヤワヤワでダメダメだよな

とバカにされて、

無礼者!! あんたたち「デイジーカッター」を知らないっスか!?

と切り返してしまうところ(p57)には感服いたしました(参考:デイジーカッター - Wikipedia)。

まとめ

タイトルのイメージとは裏腹に、決してヤワヤワでもダメダメでもないとびきり楽しい百合漫画でした。恋の熱さや理不尽さをしっかり描き出しているところが新鮮だし、それでいて全体を包み込むほのぼの感も健在なところがよかったです。というわけで、超おすすめ。