- 作者: 和智正喜,シバユウスケ
- 出版社/メーカー: メディアファクトリー
- 発売日: 2007/06
- メディア: 文庫
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少女と少女のSFドタバタ百合コメディ
頭につけるとその人を自由に操ることのできるオーパーツ、通称「アンテナ」をめぐるほんわかアクションコメディ小説。主人公「美倉清香」が、一目惚れした転校生の美少女「彩原舞子」に突然アンテナを刺されて操られ、ある騒動に巻き込まれていくという話です。つまり、「ぴぴっと!!」というタイトルは、
- 電気が走ったかのような衝撃的な一目惚れ
- 舞子→清香のアンテナ受信
のふたつを掛けているわけで、そこが面白かったですね。清香の舞子への惚れっぷりも可愛く、見ていて楽しかったです。難点としては、お話がマイルドすぎて今いちメリハリに欠けること。せっかく「人が人を操る」というショッキングな要素を含んでいるのですから、要所要所でもう少しゾクリとさせるような演出を入れてもよかったのではないかと。あ、でも、オチはラブくてよかったです。
少女と少女のケミストリー
以下は、転校してきた舞子の自己紹介中の清香の様子(p15)です。そもそも舞子の姿を見ただけで「椅子からずり落ちそうに」なり、声を聞いたら聞いたでドキドキして顔を赤くしている清香ですが、このあたりが決定打。
「なんなんだろう。あのひと。な、なにが迫ってきてるわけ、今? あたしに!」
混乱した清香は気づかないうちに、心に浮かんだ声を言葉にしていた。
「なに? なにがこんなに? どこが? ううん、どことか、これとか、それとか、そういう部分部分のスペックやディティールやマチエールやテクスチャは関係なく」(引用者中略)
「……『好き』? ……あ、それだ」 清香はぐっと拳を握りしめた。 「……好きなんだ、つまり! 大好きなんだ!」
このまっすぐな「好き」の全肯定。すばらしい。いちいち「こんなの変」だの「気持ち悪がられる」だの「背徳(笑)」だの「罪悪感(笑)」だのというコテコテの異性愛規範を持ち込むことなく、女のコから女のコへの好き感情をここまでド直球ですぱーんと描いてくれていることに感動しまくりました。
ちなみに「アンテナ」(正式名は『S&M』)で操られている間、スレイブ側の意識はマスターに筒抜けです。つまり、清香が舞子を好きだと思っていることも当然筒抜け。それを知ってパニックして400メートル全力疾走しちゃったり、お風呂のシーンでひとりで盛り上がったり恥ずかしがったりと大忙しの清香の姿が、それはそれはよかったです。えらく可愛いのに、同時にどこかコミカルなところが最高。
ストーリーはややメリハリ不足
敵キャラが全然悪い人じゃないところはいいんですが(全体のトーンもほのぼのコメディですしね)、それにしてももう少し要所要所にサスペンスがあってもよかったのではないかと。たとえば○○がアンテナをつけて無表情で登場するシーンなんてのは、見せ方によってはもっともっと怖くなったんじゃないかと思うんですよ。清香と違ってマスターに完全に支配されたスレイブの怖さ、もっと言ってしまえば「人が人を操る」ということの怖さをもう少し打ち出した方が、ほのぼの部分との対比がくっきりしてより面白くなったのでは。
あと、舞子のあの段ボール箱だけでいきなり清香の心境があのように変化することにも違和感が。段ボールに入っていた手紙も、舞子の内面を伝えるというよりは、話を進めるための説明台詞っぽいですしね。何かもっとインパクトのあるアイテムかエピソードを使ってどーんと盛り上げてくれたらよかったのに、とやや残念に思いました。
愛あるオチは好印象
ある人の意外な台詞にびっくりしたりにやにやしたりと忙しかったです。ほんのりと心が暖かくなる、愛あるオチでした。
まとめ
「人が人を操る」、という一見ダークにもアンモラルにもなりそうな要素を、うまくあっけらかんとしたお話に落とし込んだアクションコメディ。もう少しサスペンスがあってもよかったかも、とは思いますが、女のコ同士の好き感情をはっきりくっきり描いているところがいいし、何よりも愛あるオチが最高。さくっと読める軽めの百合コメディをお探しの方におすすめです。