石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

『先輩と私』(森奈津子、徳間書店)感想

先輩と私

先輩と私

官能とギャグをぎっしり詰め込んだ、女性同士のエロティック・コメディ

女性同士の濃密なエロティック・コメディ。面白かったです! エロスと笑いのマーブル模様具合もすばらしかったし、これだけさまざまな官能(とは言え、組み合わせは全部女のコ同士なんですが)が書き込まれたドHな小説でありながら、しっかりとタイトル通りに「先輩と私」のラブストーリーになっているところもとてもよかった。「百合は清純じゃなくっちゃ」(で、清純って何?)とおっしゃる方には向かないかもしれませんが、豊かな性愛とギャグにあふれた百合/レズビアン小説を、あるいは単純にオカズをお探しの方にはイチオシです。

あらすじなど

ストーリーは、

「女子大のサークル『好色文学研究会』(略して好研)の会員『光枝』は、好研の会長でオナニストの『阿真理』先輩に片想い中。一方、好研と対立する『エロティック文学研究会』は全員レズビアンで、光枝を仲間に引き入れようと必死。エロ研メンバーの誘惑(性的な意味で)についつい乗ってしまった光枝の明日はどっちだ?」

というもの。

構成が実に心憎いんですよ。実はストーリーのごく初期において、光枝と阿真理はセックスをするのですが、そこで光枝は阿真理のためにひとつの嘘をついてしまいます。そこから始まる長い長い欲求不満期間に、彼女はエロ研の皆さんとの性の彷徨を経験するわけですが、その間阿真理は一切のエロ行為に加担しません(たぶん、単独オナニーはしてますけど)。要するに、いわば一種の聖処女としての阿真理を遍歴の騎士光枝が獲得するという物語構造になっていて、そこがとても面白かったです。

あと、光枝のムッツリスケベなキャラと、そこからくる発想力&文才もお話をしっかりと引き立てていてよかったです。彼女の自作エロ小説「カレン姫の秘密の冒険」を読んでみたいと思ったのはあたしだけではないでしょう。メタ小説としてどっかの出版社が出しませんかね?

エロスについて

森奈津子さんの作品ですから、よくある「女性ならではのツボを心得た動き」みたいな手抜き描写はいっさいなし。ねちっこくてやらしくて、いいですよー。ちなみに当然、嗜虐/被虐要素もてんこもりです。美しい女性に虐められる/美しい女性を虐めるシチュエーションに興奮する方なら、読まない手はありません。

笑いについて

怒涛のエロパワーに負けないぐらい、笑いのパワーもはじけまくっています。たとえば、こんな具合に。

彼女の苦痛の表情、額の汗、生理的欲求を耐えて小刻みに震える全身。亜希子さん、仁子さん、瑠璃ちゃんの好奇に満ちた薄笑い……。
見える! 私には見える! そのときの情景の細部までが!
今、華代女史は、個人的な営みであるはずの自慰行為を芸術にまで高めることに成功したのだ。この人こそは、オナニー界(って、なに?)の北島マヤだ!

「じゃあ、一緒にオナニーしない?」
「は、はいっ。ぜひとも。でも、いくときは、同時にですよ」
仁子が尻尾を振る犬のようにうれしそうにこたえると、光枝先輩はきれいな笑みを浮かべて、演技めいた「お姉さま口調」でこたえた。
「ふふっ。私に追いつけるかしら、仁子さん?」
「ま、待ってください、光枝さん」

(引用者中略)

「ホホホ。仁子さん、私をつかまえてごらんなさい」
「ま、待ってぇー」
「ふふふ。こっちよ、こっち!」

愛について

書き下ろしの第10話「天国に一番近い四畳半」がすべてを物語ります。可愛くて、かつ官能的で、にやにやしながら読んでしまいました。ハッピーエンディングの明るい(そしてエロ豊富な)レズビアン小説をお探しの方は、こういうのを読まれるといいのでは。

まとめ

オカズによし、コメディとしてもよし、ラブストーリーとしてもよしと三拍子揃ってます。ちなみに「ドがつくほどHな本なのに、買いやすい」(帯より)をテーマにしたという造本も親切で花マル。というわけで、めっちゃくちゃおすすめです。