石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『妖怪学園記(1)』(きむる、一迅社)感想

妖怪学園記 (1) (IDコミックス 4コマKINGSぱれっとコミックス)

妖怪学園記 (1) (IDコミックス 4コマKINGSぱれっとコミックス)

妖怪少女たちのほのぼの百合4コマ

猫耳や狐耳が出てくるということで、「単なるありがちな萌え4コマかな」と思ったのですが、その予想はいい方に裏切られました。鬼娘の「野菊」(通称『のんちゃん』)が主人公「ゆう」を想う気持ちの描写が細やかで、いいんですよ。回想シーンで描かれる、好きになった瞬間のケミストリーが特によかったです。のんちゃんに横恋慕する狐娘の「麗華」もいい味を出しているし、伏線をきちんきちんと張った丁寧な物語構成もナイスでした。

のんちゃんからゆうへの想い

のんちゃんにはサディスティックなところがあり、ゆうを可愛がりつつもしょっちゅうだまくらかしては楽しんでいます。それだけならよくある上から目線の「自称S」キャラだと思うんですが、この人が一味違うのは、ゆうへの想いの熱さです。例を挙げると、こんな感じ。

  • ゆうに「口聞かない」と言われて「ふふふぐっ」と奇妙な嗚咽を洩らしながらボロ泣き(p35)
  • 「ゆうに嫌われたら生きてけない…っ」とうちひしがれる(p37)
  • 「ゆうをだましてもいいのは私だけ」とライバルに対抗心を燃やしまくる(p76)

要するに、薄っぺらい上から目線だけのキャラとは全然ちがう、いわば「惚れた弱み」がありまくりのキャラなんですね。そこが人間くさくて(鬼だけど)とてもいい感じでした。

また、子供時代ののんちゃんがゆうを好きになったきっかけのエピソードも深くてよかった。このように惚れた瞬間のケミストリーというものをきちんと描いてくれている百合作品を、あたしは高く評価したいです。

麗華からのんちゃんへの想い

登場当時はのんちゃんをお姉様呼ばわりしたりして、すわ当て馬のテンプレ百合キャラかと思わせる麗華。しかし実際にはお姉様呼称をすぐ改めるわ、ゆうの母のSっぽさにうっとりするわ、ストーリーにかかわる重大な秘密を知っていたり、あるいは見つけたりするわで、ただの当て馬なんかでは全然ない重要な存在だったりします。性格も可愛いんですよ。いざというときに

私 そこまで野暮じゃありませんわ

とのんちゃんのために身を引く(p112)潔さがまずいいし、その後で

今回は貸しを作っただけですわ
今の状況がこうでも この先はどうなるかわかりません!

と「長期計画」に目をキラキラさせる(p119)たくましさもステキ。味わいのあるサブキャラだなあと思いました。

伏線の数々

のんちゃんの苗字自体が既に伏線のひとつ。また、のんちゃんの年齢や家のこと、そして麗華が気づいたゆうのにおい等も、クライマックスで明かされる大きな秘密にかかわっています。このように小さな謎を少しずつ積み上げていって、ここぞというときにドカンとお話を盛り上げるという構成が、非常によかったです。

その他

  • 猫娘のエピソードにちょっと泣きました。猫飼いなら必見。
  • 妖怪ものならではの凄味のあるエピソードもよかった。(とは言え結局ほのぼのオチに終わるので、怖がりさんも大丈夫です)
  • 全部読んでからカバー下のおまけ漫画を読むと楽しいです。

まとめ

ほのぼの4コマでありながら、のんちゃんからゆうへの「好きな気持ち」の描き方に力が入っていてとてもよかったです。サブキャラの恋がただのテンプレ当て馬として安直に消費されていないところも好感度大。緻密な伏線が効いた物語自体もナイス。というわけで、おすすめです。