石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

『BLUE』(咲坂伊緒、集英社)感想

BLUE (マーガレットコミックス)

BLUE (マーガレットコミックス)

「いとこ同士の恋愛」をタブー視するわりに、同性愛の扱いはずさん

「主人公杏奈(♀)は大好きな怜司(♂)への想いを『いとこ同士だから』という理由で抑圧。一方杏奈の親友瑠海(♀)は、実は杏奈のことが好きだった」というお話。百合漫画として読むならば瑠海の片想いに注目、といったところですが、「いとこ同士」ということを無意味にタブー視しているわりに、同性愛に対する偏見の扱いがずさんすぎる話であるところがいただけません。瑠海のいくつかのセリフには胸がすくようなものもあるのですが、全体的には「世間が狭いお子様ヘテロセクシュアルのマイノリティごっこ」に見えてしまいます。

そもそもいとこ同士の何がいかんの?

日本じゃ昔から「いとこ同士は鴨の味」と言ってですね、いとこ同士のカップルだの夫婦だのは別に珍しくもないことなんですよ。作中の杏奈の台詞にもある通り、恋愛も結婚もできる関係なわけですよ。法律だって手厚く守ってくれますよ。それが杏奈の独白では

あなたを好きと想うことは 許されるものなのか許されないものなのか 考える度曖昧な罪悪感だけが胸に青く積もる

って(p3)、何ですかこのマイノリティぶりっこ。何かもっと深い理由があるのかと読み進めてみるも、結局杏奈が恐れていたのは「周囲から『いとこ同士なんてキモい』と思われること」だけ。それだけでここまで悲劇のヒロインなりきりができるというのはある種の才能ではありますが、個人的には「バッカじゃなかろか」としか思えませんでした。

同性愛の扱いがひどい

その1:怜司はただの差別野郎

実は怜司は瑠海が杏奈を好きなことに気づいていたという設定なのですが、それでわざわざ瑠海を呼び出して言う台詞(p108)がひどいんですよ。

俺はアンタのそういうシュミに口出しするつもりはないけど 俺のいとこは巻き込まないでやってくんない?

ここに見られる問題は大きくわけてふたつ。

  1. 同性愛を「シュミ」よばわり
    • 性的指向は趣味とは違います。同性愛を「趣味(=個人的・私的な余技)」よばわりするのは、「そんな私的なことは俺達の目につかないところで勝手にやれ」というロジックで同性愛を抑圧&周辺化しようとする異性愛者の典型的な態度です。
  2. 「巻き込む」という表現
    • 「巻き込む」って、いい意味で使う言葉ではなく、よくないことに引き入れるとか巻き添えにするという意味ですよね。つまり怜司は、同性愛を問答無用でスティグマ視しているわけです。何様だこいつ。
その2:瑠海までホモフォビアをがっつり内面化

以下は、杏奈に怜司に告白させようとして発破をかける瑠海の台詞(p112)。

伝えちゃいけない気持ちなワケじゃないのに そんなのもったいないッ
私からすればうらやましいよ
結果的に私は告ってしまったけど
でも杏奈ちゃんは伝えてもいい相手なんだよ!?

この言い回しだと、まるで同性への想いは即「伝えちゃいけない気持ち」であるかのようじゃないですか。『マーメイドライン』(金田一蓮十郎、一迅社)に勝るとも劣らぬ同性愛嫌悪っぷりだなあ。いや、同性愛者がこうやって自分を卑下して自縄自縛に陥ることがないとは言いませんよ。でも、これが一種の感動的な励ましの台詞として消費されてしまうことには、違和感を覚えるんですよ。

でも、瑠海のこのへんの台詞はよかった

まずは、怜司に誤解されたときの瑠海のこの台詞(p51)。

分かりやすいものだけが真実ってワケじゃないっ
見えてるものだけが全てなワケじゃないんだよっ

クローゼットな(その時点では、ですが)同性愛者ならではの重みのある台詞だなあとしみじみしました。
あと、「いとこ同士だと差別されるから、杏奈が傷つく」という謎な発想から杏奈の告白を拒む怜司に向かってのこの台詞(pp156-157)もよかったです。

なんだ その中途半端な正義は。
周りから守ってるつもりが あんたが一番傷つけてるって分かんないの?
ばーか 偽善者。

これにはほんと、胸がすっとしました。

まとめ

お話の根幹が「『いとこ同士=タブー』という偏見に負けない恋」というものなのに、その一方で同性愛は問答無用でスティグマ扱いされてしまっているところがなんとも後味悪いです。瑠海のマイノリティならではの台詞のいくつかは爽やかでよかったんですが、結局同性愛者の片想いが「この偏見(同性愛差別)よりこっちの偏見(いとこ同士差別)の方がマシでしょう?」的にヘテロ恋愛の踏み台にされてしまっているところが悲しい感じ。やはり、冒頭に書いたとおり、全体的には「お子様ヘテロセクシュアルのマイノリティごっこ」というカラーの作品であって、百合部分にはあまり期待しないで読むのが吉かと思います。