石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

『.(period) 』(瑠璃歩月、一迅社)感想

. (period) (一迅社文庫アイリス る 1-1)

. (period) (一迅社文庫アイリス る 1-1)

あちこち破綻しすぎ

うーん、今いち……。この作品は一迅社文庫アイリスの創刊を飾るガンアクション&ガールズラブ小説のはずなのですが、あちこちの描写が破綻しすぎていて、最初から最後までお話にノることができませんでした。百合方面が薄口(おでこチューどまり)なことには特に不満はないのですが、アクション及び全体的なストーリーにはほころびが多すぎるように思います。

破綻あれこれ

1. ビアンカがニコラと手を組む理由が不明瞭すぎる

主人公ビアンカはイタリアの女警察官。PSA(対マフィア特殊警察)と組んでの捜査中、武装した謎の少女ニコラに人質にとられ、なぜかニコラと共にPSAのメンバーを撃ち始めることになるのですが、この「なぜか」の部分があまりに説明不足で、ついていけませんでした。

いくらPSAの「人質(ビアンカ)に構わず突入、徹底した殲滅戦を遂行せよ」という警察無線を聞いたからって、警察官がそれだけでいきなりかつての仲間をほいほいと銃撃するものでしょうか。そもそもビアンカが人質になってしまったのは上官の命令を無視して勝手な行動をとったためですし、それで警察側が強行突入策を取ったらあっさり敵側に寝返るって、身勝手すぎ。だいたい、いくらボディアーマーを着てたって当たり所が悪ければ相手は死にますし、第一動く相手をハンドガンで撃ったらそうそう狙った場所には当たらない、つまり殺すつもりはなくても急所に当たることもありえることぐらい、「全国の警察官を対象にした射撃大会においても、昨年は準優勝を果たした」(p. 71)ビアンカが知らないわけはないと思うのですが。

要するに「ガールズラブ小説なんだから、とにかくビアンカがニコラと組んでくれないと困る」ってことなんでしょうが、だとしてもあまりにもずさんな話運びだと感じました。もっと強烈な、たとえばPSA側の手ひどい腐敗や悪事のエピソードでも仕込んでくれていたら、ビアンカの裏切り(とあえて言ってしまいます)にも少しは共感しやすかったと思うのですけれど。

2. ガンアクションがいいかげん

以下は警察官としてのビアンカが、銃を持ったマフィア数人がいる建物に突入する直前の場面(p. 10)です。

マーリオの後ろには、ビアンカの所属する捜査二課のメンバー四名が、銃を手に散らばっていた。ビアンカは思わず舌打ちしていた。この少人数は事を重大に捉えてもらえなかった証拠だ。その張本人はおそらく一番後ろにコソコソと控えている巡査部長だろう。彼は仕事そのものが嫌いなのだろうか? それともマフィアが怖いのだろうか? いや、おそらくその両方だ。

マフィアが怖いんだったら、少人数じゃなく大人数でかかるはずだと思うんですが。警察なら無線一本でいくらでも増員できるはずですしね。しかも、この後のビアンカの独白(p. 11)が呑気過ぎます。

絶対にけが人が出るか取り逃がすかに違いない。

死人が出る可能性は無視ですか。一事が万事で、どうも銃撃戦の描き方に緊迫感や凄みがない作品だと思うんです。もともとガンアクションが得意な作者さんではないのか、終盤のブランカーティ一味との戦いなんて、大雑把すぎて「小説というよりただのメモ」風になってしまっていると感じました。具体的にはp. 264の9~15行あたりですけど。

3. ガンアクション以外でも、妙な描写が多すぎ

とりあえず3点だけ挙げておきます。

  • PSA相手のいざこざで、「マフィアと通じていた」という疑惑(p. 91)までかけられて失踪するはめになったビアンカが、のこのこ自分のアパートに着替えを取りに行くのは変。自宅なんて普通、張られてるに決まってると思うんですが。
  • 夜眠りたがらないビアンカを眠らせるために、ニコラが彼女の後頭部を銃把でぶん殴る(p. 109)というのも変。いまどき漫画だってこんな粗雑な表現はしないと思います。
  • バイクを使ってのカーチェイスで、オートバイの扱いがまるで自転車並みなところも変。バイクと路面の間に足をはさまれるなんていうド初心者風のコケ方をして、おまけに体が「バイクごと右側に倒れて道路を滑」(p. 186)る状況なら、悪くて骨折、よくても足の右側全部アスファルトに削られてズタボロでしょう。それがたいした怪我もせず、おまけにキャブレタのオーバーフローも起こさずに(つか、エンストした描写すらないんですよね)そのまま車体を立て直して走り続けるというのはいかにも想像だけでバイクを書いてる風味。

4. 序盤でネタが割れてしまう

全体の十分の一程度読んだところでもう黒幕がバレバレ。どこかでどんでん返しがあるかと思いきや、何もないんですよこれがまた。

百合部分について

「狼」と「飼い犬」という組み合わせは面白かったし、ビアンカのとある台詞が結末でちゃんと生きているところもよかったです。全体的にマイルドなのはレーベルのカラーもあると思うので、ノーカウント。個人的には、百合部分「だけ」を見るなら5段階評価で3ぐらいでしょうか。

まとめ

ビアンカとニコラの心の交流「だけ」を見るなら、薄口ではあるけれども面白い小説だと思います。けれど、それ以外の部分にあまりにも粗が目立ちすぎて、うまくお話の中に入り込めませんでした。百合もののガンアクション小説をお探しの方には、『ヤングガン・カルナバル』(深見真、徳間書店)(や『バニラ―A sweet partner』(アサウラ、集英社)の方がおすすめです。