石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

『さんぶんのいち。(1)』(松沢まり、芳文社)感想

さんぶんのいち。 1 (まんがタイムKRコミックス エールシリーズ)

さんぶんのいち。 1 (まんがタイムKRコミックス エールシリーズ)

少女×少女と少年×少女の、思春期三角関係もの

柚(♀)・葵(♀)・楓(♂)の幼馴染3人の揺れる心を描く思春期ラブコメ。面白かったです! これは要するに葵と楓が柚を取り合う三角関係ストーリーなんですが、一見ただのほのぼの&ドタバタ系のお話と見せかけておいて、実は要所要所にさりげなく毒がきかせてあるところが素晴らしい。特に、さまざまなキスシーンで描かれるキャラ達の心の機微が白眉かと。また、変に「同性愛がテーマです!」みたいに気負った作品ではなく、百合恋愛もヘテロ恋愛もあたりまえに等価に扱われているところもとてもよかったです。個人的には葵がとても好きなので、彼女には幸せになってほしいなあ。

キスで描かれる心の機微

第1話にしていきなり葵から柚への告白ちゅーが出てきます。あたしなんかはそれだけでも喜んじゃうんですけど、でも、決して「それだけ」ではとどまらないんですよこの漫画は。
『さんぶんのいち。』では、初々しい告白キスのみならず、衝動的なキス、報復のキス、そして苦い心の傷を残すキスまで、さまざまなキスがたいへん丁寧に描かれていきます。特徴的なのは、それらのシークエンスによってキャラたちの内面がありありと描き出されていること。特に葵の描き方がよかったです。彼女の積極性やしたたかさ、そしてしたたかさと表裏一体の過去の痛みなどがこれらのキスを通じて実にうまく表現されており、ぐっときました。

作中の「毒」

上の方で書いたキスのエピソードのうちいくつかがこれに絡みます。一歩間違えばすごく陰惨な話にもなりかねないきわどさ・あやうさと、そこで不用意にエグい側に傾きすぎない絶妙のバランス感覚が面白かったです。

同性愛も異性愛も等価な扱い

女のコ同士の恋が登場するからといって、変な異性愛主義もその裏返しの同性愛礼賛もないところがよかったです。葵も楓も単にもどかしい片想いをしているだけであって、そこに性別がこうだからどうだという視点は入ってないんですよね。こういう、女が女を好きになることでいちいち大仰に騒がない作品の存在って、ありがたいわー。

まとめ

もどかしくてむず痒い、それでいていとおしい、素敵な思春期ラブコメだと思います。同性愛も異性愛もフェアに扱われているし、ただの萌えオンリーの漫画とは一線を画す毒と深みがあるところもとてもよかったです。あと、何度も登場するキスシーンもよかった! 2巻も楽しみです。