石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

『にくらしいあなたへ』(森永みるく、ワニマガジン社)感想

にくらしいあなたへ (ワニマガジンコミックス)にくらしいあなたへ (ワニマガジンコミックス)
森永 みるく

ワニマガジン社 2000-09
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キスもセックスも心のつながりも、どれもよかったです。

全7話の表題作と、読み切りの「時が許す夢の罪」に女のコ同士の関係が出てきます。同作者さんによる『くちびるためいきさくらいろ』はあまり合わなかった自分ですが、これはどちらも楽しく読めました。変なヘテロノーマティヴィティー(異性愛規範性)の押し付けもないし、女のコ同士のキスもセックスも心のつながりも、どれもみんなよかったです。

ひょっとしたら、登場人物に必ずといっていいほど男がいて、往々にして身体の関係もあること、それゆえ女同士のモノガマスなハッピーエンドが存在しないことがお気に召さない方もいらっしゃるかも。でも、個人的には、これはこれである種の現実味があっていいと思いました。唯一難点を挙げるなら「時が許す夢の罪」というタイトルにちょっと疑問を覚えんでもないのですが、これについては後述。

『くちため』との最大の違い

『にくらしいあなたへ』と『くちため』との最大の違いは、モノローグの分量。『くちため』では、テキストの実に3分の1近くを主人公のモノローグが占めていますが、『にくらしい(略)』の百合作品ではモノローグは全体のせいぜい1〜2割程度。つまり、『にくらしい(略)』においては、「キャラクタの内面を逐一言葉で説明すること」より「物語そのものの起伏を追うこと」により重点が置かれてるんですね。

ヘテロノーマティヴィティーやホモフォビアを強固に内面化した人にとっては、「“同性同士であるがゆえの”内心の苦悩、およびとまどい」なるものも百合作品の楽しみのうちであり、それらがモノローグで延々綴られるのはむしろ歓迎すべきことなのかもしれません。けれども、そういった価値観を持たない人にとっては、『くちため』より『にくらしい(略)』の方が合うんじゃないかと思います。事実、本作に収録されている百合作品にはいちいち異性愛規範を絶対視するような心情描写はほとんど登場せず、たいへん楽しくストーリーの流れを追うことができました。

「にくらしいあなたへ」(全7話)について

貧乏4人家族の長女「一美」のもとに突然腹違いの妹の「ともみ」が現れるというストーリー。反発し合いながらも次第に距離を縮め、最後にはラブラブセックスを経て「大好きなあなた」になるという流れが美しいです。

このお話で非常に面白いのは、一美にもともみにも彼氏がいて、当然のように男女セックスが登場すること。掲載誌(『COMIC快楽天』)の都合ももちろんあるのでしょうが、これだけ男女エロを描きつつも百合話としてきちんと成立させてしまうという力技に圧倒されました。特に最終話のラブさとあたたかさは必見です。

「時が許す夢の罪」について

彼氏がいることを隠して女子校の先輩と身体の関係を持ち、結局バレて振られてしまった「恵」のお話。セックス中の

人に服ぬがしてもらうのって気持ちよくないですか?

なんていうさりげない台詞に込められたリアル感がいいし、ストーリーに漂うかすかなほろ苦さもぐっときます。ラブラブハッピーエンディングではないけれど、「こういうことってあるよね」と微苦笑とともに共感せずにはいられない、人間くさいお話だなあと思いました。「同性愛は成長の一過程なんですー!」みたいな異性愛原理主義的アピールに走らず、淡々とモノガミーとポリアモリーの、そして異性愛と同性愛(または両性愛)の境界のゆらぎをとらえていくところが実に面白かったです。

ただ、些細なことではありますが、「時が許す夢の罪」というタイトルのニュアンスはちょっと気になります。このタイトルだと、「過去にさんざんひどいことをしといて、それを『昔のことだし、今となってはいい想い出よね☆』としれっと美化する元なんちゃってレズ」みたいな雰囲気が出ちゃわない? お話そのものは少しもなんちゃってめいていないのに、タイトルがこれではもったいないと思うんですよね。

まとめ

表題作も読み切り百合話も、モノガミーとポリアモリー/異性愛と同性愛(または両性愛)の境界のゆらぎをうまくとらえて女のコ同士の関係を描いてみせた快作だと思います。絵柄も可愛いし、キスやセックスの描写も熱くて良いです。おすすめ。