石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

『わかってないのはわたしだけ』(鳥飼茜、講談社)感想

わかってないのはわたしだけ (KCデラックス)

わかってないのはわたしだけ (KCデラックス)

ひりひりするような思春期群像劇(百合話あり)

オムニバス形式で5人の少女の恋愛事情をつづる連作集。ハッピーエンディングのお話もあれど、基本的にはどの作品もひりひりするような「青春の嵐」(カバー裏より)の物語です。巻頭に収録されている百合話「れいとエリ」も例外ではなく、ふたりの葛藤も、読者をぽんと放り出すような結末も、いかにも思春期らしい痛みに満ちあふれています。甘やかなラブラブ百合話をお探しの方には向きませんが、傷口から血がにじみ出すような十代の傷心に「くーっ」ともんどり打ちたい方にはおすすめ。

「れいとエリ」について

長身の王子様「れい」と、そんなれいにずっと守られてきた美少女「エリ」のお話。と言うと陳腐な「ヘテロ女子同士の『男と女ごっこ』」系のお話を連想される方がいらっしゃるかもしれませんが、違うんですよ。これは予定調和的な「王子と姫」ロールプレイの漫画なんかではなく、思春期のアイデンティティ・クライシスと、その中での痛みをともなう恋情を描く作品なんです。
異性愛・同性愛を問わず誰しも身に覚えがあるようなテーマだけに、いっそう胸に刺さるしんどい話となっています。衝撃的なキスシーンと思い切った結末は特に見どころ。これって結局「王子と姫」どころか「姫VS姫の葛藤」の物語なんだなあとしみじみさせられてしまいました。

その他の作品について

どのお話も、若さゆえのじりじりするようなつらさやジレンマが巧みに描かれていて面白かったです。特に、シリーズのスピンオフ作品「水辺のゆめ」の最終ページのぽそりとしたモノローグと言ったらもう。帯に書かれている、

いやなことはぜんぶ時が解決してくれるって言ったやつ あと何日かかるかおしえて

という台詞と共に、この1冊全体を象徴するキーフレーズだなあと思いました。

まとめ

十代の主人公たちの揺れや痛みをていねいに描き出した名作だと思います。百合話「れいとエリ」の葛藤具合も面白かったし、その他のお話も皆たのしく読めました。思春期のつらさ・しんどさを扱ったお話がツボな方におすすめ。