石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

小説『疾走する思春期のパラベラム この世の人々が許しあうまであと千億の夜』(深見真、エンターブレイン)感想

疾走する思春期のパラベラム この世の人々が許しあうまであと千億の夜 (ファミ通文庫)

疾走する思春期のパラベラム この世の人々が許しあうまであと千億の夜 (ファミ通文庫)

パラベラムたちの苦難の戦い、そして帰還

腕に特殊な武器<P・V・F>を展開できる「パラベラム」の主人公たちが、苦難の戦いを経てホビット庄に帰るまでの物語。と言ってもワケわからんでしょうが、詳しくはご一読を。バイオレンス度が着々と上がり、皆様のトラウマも一層剥き出しにされ、さらにあの志甫も相当むごい目に遭うという内容なので、「ホビット庄」(という言葉が実際に出てくるんです)のくだりでは笑っていいやら泣いていいやら、いろんな感情がこみあげて来て大変でした。相変わらず多様なセクシュアリティが当たり前のように出てくるところもいいし、お話の構造が「人類VS乾燥者(デシケーター)」あるいは「正義VS悪」という単純な二項対立におさまらないところも楽しかったです。

バイオレンス度について

<P・V・F>でダメージを与えられるのは神経や精神。というわけで、同じ深見作品でもヤングガンや武林と違って物理的に肉体が破壊される描写が少ないのが「パラベラム」シリーズだったのですが、今回は<P・V・F>以外によるかなり痛そうな描写が登場します。これは見どころ。

あと、戦闘シーンについては、自衛隊と乾燥者とのドンパチがたいへん面白かったです。ガンアクションに定評のある作者さんだけに、実在の兵器がからむ戦闘描写は迫力満点で、非常に読みごたえがありました。「あまりにねっちりみっちりと描き込まれているので、軍隊や兵器に興味ゼロな方には辛いかも」と言えばその濃厚度が伝わるでしょうか?

皆様のトラウマとセクシュアリティについて

今回精神攻撃でトラウマを剥き出しにされるのはあの人なんですが、そこにやっぱり勇樹が登場するところが興味深いです。かなりドロドロした部分もあるのですが、彼が覚醒した瞬間のひとことには思わず微笑が浮かんでしまいました。あと、睦美と一子の関係も、性的な意味でも(ちなみにHシーンありです)それ以外の意味でも面白かったなあ。

志甫の遭う災難について

このシリーズでそこまではやらんだろう、と思ったことが本当にそうなってしまったので驚きました。うおお。それでもホビット庄とか言ってるあたりが志甫のアホさであり、けなげさであり、かわいさですよね。肝心の一兎への想いは今のところ『君の名は』的なじれったい展開を見せており、案外志甫ってアホの子の皮をまとった正統派古典的ヒロインなのかも、と思ったりしました。

二項対立かと思いきや

第3の勢力(?)が登場。それでいて一兎たちの立場が、「人類を守る正義の味方」みたいなうさんくさいものには決してならないところが楽しいです。特に睦美のこのセリフ(p. 159)がよかった。

勘違いするなよ。私たちはここに『人類を守るため』に来たんじゃない。『志甫を助けるため』にやってきた。今までの私たちの戦いが、一度でも『人類のため』なんて大げさなものだったことはあるか?

まとめ

バイオレンス・アクション描写プラス志甫のけなげさが光る1冊でした。トラウマや多様なセクシュアリティの描写、そして主人公たちを単純に「正義の味方」と位置づけないストーリー展開も面白かったです。次巻も楽しみ。