石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『ミシン2/カサコ』(嶽本野ばら、小学館)感想

ミシン2/カサコ (小学館文庫)

ミシン2/カサコ (小学館文庫)

魂の救済を描く恋愛(女のコ同士の)小説

前作「ミシン」では、その強烈な結末に呆然となられた方が多いのではないかと思います。『ミシン2/カサコ』は、まさにその結末から始まる魂の救済の物語。今回は前作よりはっきりと女性から女性への欲望が出てくるし、キスシーンもあるのですけれど、それでいて「恋の成就ですべてがうまく行きました☆」みたいな凡庸な方向には全然行かないところがユニークです。本作では、ふたりの女のコをしっかりと結びつけるのはパンクロックとお洋服。つまりこれは恋愛小説でありながら、バンド小説でもあり、お洋服小説でもあるのです。

救済について

ネタバレせずに書くのが難しいのですが、まず「カサコ」の漢字と、そう名付けたのが誰なのかわかった時点で救われる人がひとり。そして、そのカサコに救われる人がひとり。このコたちが『ミシン2』でのメインカップルとなります。予備知識なしで読んだ方が絶対絶対面白いので、これ以上は伏せます。最初のページを開いた瞬間と、「カサコ」の漢字がわかる瞬間のあの新鮮な驚きを、ぜひご堪能ください。

ふたりの女のコを結びつけるもの

主人公カサコは相手の女のコに対してはっきりと性的欲望を秘めているし、

その声は余りにか細く、やるせなく、私はとっさに、気付いたら、貴方の薄い唇に自分の唇を重ねていました。貴方は逃げようとはしませんでした。私がすぐに自分が思わずとった行動に自ら驚き、貴方から慌てて離れるまで、貴方は私を抱きしめたままでした。

という具合に、お話の序盤(p. 28)でもうキスシーンが出てきます。ところがその直後に、カサコはこうも言います。

あれが最初で最後の、多分、二人のキスですね。貴方の幼子のよな柔らかな唇の感触の全てを、私は生涯、一欠片たりとも忘れることはできないでしょう。

つまりこの物語においては、最初から恋は成就しているわけ。キスすることすら可能なわけ。でありながら、敢えて、キスやセックスでもってふたりの関係を絶対視するとか、ましてやそれで大団円ぶって終わるといった描き方はしないわけ。そういう陳腐な恋愛/性愛至上主義とは離れたところで、「女のコが、恋する女のコを救う話」を紡いでいくのが『ミシン2/カサコ』なんですよ。

そこで非常に重要な役割を持っているのが、パンクロックとお洋服。クライマックスでは前作のあの頭の悪そうな歌&キティちゃんの絵入りギターが大活躍し、お洋服は光射すエンディングのための超重要な伏線となります。どちらのシークエンスもおそろしく鮮烈で、特に後者はぐっときました。あのキャラクタがずっとかたくなまでにSUPER LOVERSのお洋服を着ていたのは、すべてこのハッピーエンドのためだったのですね。告白だのキスだのセックスだのという使い古された手段ではなく、こうしたものを使って女のコ同士の結びつきをガツンと描いてみせるところが、たまらなく斬新かつエキサイティングでよかったです。

まとめ

パンクロックとお洋服で愛(女のコ同士の)を叫ぶバンド・ノヴェル。単品でもじゅうぶんひとつの小説として読めますが、前作から通して読んだ方が、「良くできたバッドエンドから光射すトゥルーエンドへ」とでも呼ぶべきダイナミックな起伏がより楽しめるかと思います。おすすめ。