石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

『ストライクウィッチーズ スオムスいらん子中隊シリーズ(1〜3)』(ヤマグチノボル、角川書店)感想

ストライクウィッチーズ―スオムスいらん子中隊がんばる (角川スニーカー文庫)

ストライクウィッチーズ―スオムスいらん子中隊がんばる (角川スニーカー文庫)

  • 作者: ヤマグチノボル,上田梯子,島田フミカネ,Projekt Kagonish
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2006/09/30
  • メディア: 文庫
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ストライクウィッチーズ 弐ノ巻―スオムスいらん子中隊恋する (角川スニーカー文庫)

ストライクウィッチーズ 弐ノ巻―スオムスいらん子中隊恋する (角川スニーカー文庫)

  • 作者: ヤマグチノボル,島田フミカネ,上田梯子,Projekt Kagonish
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2007/02/22
  • メディア: 文庫
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ストライクウィッチーズ 参ノ巻  スオムスいらん子中隊はじける (角川スニーカー文庫)

ストライクウィッチーズ 参ノ巻 スオムスいらん子中隊はじける (角川スニーカー文庫)

  • 作者: ヤマグチノボル,島田フミカネ,上田梯子,Projekt K
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2008/07/01
  • メディア: 文庫
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緻密で過激な百合ミリタリー成長物語。

3巻までまとめて読破。小説としてはすごく面白いのですが、百合小説としては、と問われたら、「ひとまず評価は保留」と答えたい作品ですな。この『ストライクウィッチーズ』シリーズは、「飛行脚(ストライカーユニット)」と呼ばれるメカ脚を装着した空飛ぶ少女兵士(機械化航空歩兵=ウィッチ)たちの戦いと成長を描く物語。ただのキャラ萌えラノベではなく、入念なパラレルワールド設定および軍事設定にしっかりと支えられた、読みごたえのあるオモシロ作品です。ただし、百合小説としては、あまりにもしつこく主人公「穴拭智子」のヘテロ性が強調され続けるところがやや鼻につく感じ。このまま往生際悪く異性愛主義の尻尾を引きずり続けるか、4巻以降で大化けするかによって、百合小説としての評価が大きく変わってくる作品だと思います。

小説としての『スオムスいらん子中隊シリーズ』について

これはもう、文句なしに面白いです。迫力ある架空戦記ものとしても、キャラたちの成長物語としても楽しめる、良質な娯楽作品だと思います。

この面白さのバックボーンとなっているのは、緻密なパラレルワールド設定&軍事設定。言いかえるなら、現実とウソとの織り交ぜ方のうまさです。まず、この世界で起こったのは産業革命ならぬ「魔力革命」であり、蒸気機関を改良したのは「ジェイミー・ワット」という名の魔女、飛行機を発明したのも「ライト姉妹」という設定からして面白すぎます。要するにこれって、現実とはちょっと異なる、「魔力と女性パワーが歴史を切り開いてきた世界」なわけですよ。だからこそ、乙女たちが魔力で作動する飛行脚をつけてドッグファイトを展開していても、少しも違和感がないわけ。

作中に登場する飛行脚が、ことごとく実在の軍用機をモデルとしているところもいいです。たとえば主人公智子の愛機はキ27と呼ばれており、その名の通り中島式九七式戦闘機がモデルとなっています。キ43(隼)やキ44(鍾馗)も戦闘機ならぬ戦闘脚として登場しますし、ドイツやアメリカ、イタリアなどの航空機をモチーフとするユニットも出てきます。それぞれの機体の特性を十二分に生かした空中戦の描写は、ミリヲタならずともわくわくしてしまうような迫力とリアル感に満ちあふれていて、たいへんに面白いです。

さらに、1939年という時代設定でありながら、ウィッチーズの戦う舞台が「第二次世界大戦」ならぬ「第二次ネウロイ大戦」であるところもすごい。ネウロイとは突如出現した正体不明の存在で、人類はそれに対して共同戦線を張っているということになっているんです。ちなみに各国の名前も日本は「扶桑国」、アメリカは「リベリオン」、ドイツは「カールスラント」など、巧みに現実とずらされています。現実の世界大戦をそのままなぞったら避けることのできないナショナリズムや血なまぐささを回避する、面白いアイディアだと思いました。こうした配慮があるからこそ、お話全体が少女たちの前向きな成長ものとして輝いているわけです。実際、たとえば1巻の最初と最後での智子の目の覚めるような変化など、読んでいてとても楽しかったです。

百合小説としての『スオムスいらん子中隊シリーズ』について

よい点と悪い点とが拮抗しているため、3巻までの内容では評価が難しいと思います。

まず、よかった点は、ガチな百合キャラの欲望込みの恋愛感情を真正面から描いているところ。要するに智子に想いを寄せる「迫水ハルカ」のことなんですが、彼女は1巻で智子に対して大告白をとげ、2巻ではついにセックスに漕ぎつけ(しかもひと晩で『計五回、撃墜』(2巻p. 162)ですよこのテクニシャンな13歳は!)、3巻では他のガチな人と智子を取り合うという大活躍をみせています。みょーな「精神的な繋がり(笑)」や「友情以上恋愛未満(笑)」あたりでブレーキをかけず、好きなもんは好き、したいもんはしたいとド直球で訴えるハルカの思い切りのよさは、すごく面白かったです。控え目ながらじゅうぶんにエロい官能表現もよかった!

反面、悪かったところは、ここまで女性同士の愛やセックスを登場させておきながら、主人公智子自らいつまでもヘテロノーマティヴィティー(異性愛規範性)に拘泥し続けるという、百合小説としての往生際の悪さ。そう、智子ときたら、ハルカや他のガチな人とさんざん体を重ねる一方で、くどいほど「レズのケなど、自分にはない」(2巻p. 83)、「そういう趣味はない」(2巻p. 33)、「自分はレズじゃない」(3巻p. 80)、「わたしはノーマルなの!」(3巻p. 84)と、己のヘテロ性をアピールし続けるキャラクタなんですよ。

別にレズビアンじゃなくても同性と寝ることは可能ですから、智子のセクシュアリティが何であろうとそのこと自体はどうでもいいんです。でも、百合小説で主人公にこうまでしつこく異性愛を「ノーマル(=正常)」と規定させ、同性愛を「趣味」「レズのケ」呼ばわりして周縁化・卑小化させ続けるというのは、いったい何がしたいのかと疑問に思わざるを得ません。ちなみに智子をレズビアンと解釈したヘテロキャラが

「わ、わたしはおいしくないですから~~~、食べないでください~~~」

と懇願するシークエンス(3巻p. 48)などというのもあり、要するにお決まりの「レズビアン=見境なく女性を襲うセックスモンスター」という偏見が芸もなく再生産されているところもちょっと気になります。このまま要所要所でくどくどと異性愛中心主義を開陳しながらレズビアンセックスのエロティシズムだけ掠め取っていくのか、それとも今後何らかの違った展開を見せるのかで、百合小説としての評価が180度変わりうる作品だと思います。幸か不幸か、3巻後半での女だらけの三角関係から、さすがの智子もようやく

わたし……やっぱり女の子が好きなのかしら。

と自覚するに至っているようなので(3巻p. 211)、うまくすると4巻以降で良い方向に大化けするかもしれないとも思うのですが、さて、どう出るか。

まとめ

パラレルワールドを舞台にした仮想ミリタリー小説としてはすばらしく面白いです。ハルカというガチな百合キャラの、欲望込みの過激な恋愛感情も最高。レズビアンセックスがしっかり登場するところもいいです。でも、かんじんの主人公がくどいほど異性愛主義をアピールし続けているところ、そして現存する同性愛への偏見がところどころで安易になぞられているところは、百合小説としては大きなマイナス。とりあえず今後の展開に期待したいと思います。