石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

『リビングデッド・ファスナー・ロック』(瑞智士記、小学館)感想

リビングデッド・ファスナー・ロック (ガガガ文庫)

リビングデッド・ファスナー・ロック (ガガガ文庫)

(注:1巻には百合展開はほとんどないのですが、2巻が百合話なため、1巻レビューもここに乗せておきます)

濃密な和ゴス伝奇

一気に読了。複数の謎を散りばめつつ、猫の目のようにくるくると変わっていく前半の展開が非常によかったです。エロティシズムや男性のミサンドリー(男性嫌悪)の描写、そしてアクの強いサブキャラクタと結末の1行も面白かった。欲を言うと、上下2巻ぐらいにして、もう少したっぷりみっちり語ってもらえたらもっと嬉しかったかもしれません。あと、後半の展開の一部は、読み手によって評価が分かれるかも、と思います。

前半の展開について

猟奇殺人鬼を追う警察ミステリ風に始まってゴシック・ホラーに移行し、最終的には絢爛たる和風伝奇とアクションの世界に突入していく、という怒涛のごとき流れにワクワクしました。サスペンスとホラーについては、コンビニのレシートとか、それからなんといってもファスナーとかに、「こんな風な使い道があったなんて!」と唸らされることしきり。和風伝奇に関しては、漢字びっしり、民族学たっぷりなところがとても楽しかったです。

エロティシズムについて

女性の脚および女性から靴で踏まれることへのフェティシズムが何度も登場するところや、インセスト要素が二重三重に絡まっているところなんかは、さすがガガガ文庫といった感じでしょうか。どちらもドキッとするようなエロティシズムが漂っていて、よかったです。

男性のミサンドリー(男性嫌悪)について

この小説は百合話ではありません(女同士のキスシーンこそありますが、あれはあたしの基準だとなんかちょっと違う感じ)(いや、百合と解釈する人もいるでしょうけど)(そのへんは人それぞれ)。が、とあるキャラクタのミサンドリーの描写が、百合ジャンルにのめり込む一部のシスジェンダーヘテロ男性にありがちな絶望を思わせて興味深かったです。いるよねえ、こういう「隣の芝生は青い」「俺が○○なのは全部性別のせい」的な男性嫌悪の人。このキャラの場合、あそこまで思いつめるんならトランスすればいいのに、そうしない/できないあたりはトマス・ハリスの造形によるあの人をも思わせますな。あとエド・ゲイン的でもあるかも。

欲を言うと

というわけでとても面白く読んだのですが、欲を言うと、あちこちで「説明」で済まされている部分を「物語」として見せてくれたらもっと嬉しかったかもです。本来はもっと長いお話だったのをぎゅっと濃縮した感じなので、「キャラクタの説明によって事情が明かされる」という部分がわりと多く、それがちょっともったいないかな、と思うんですよ。あと、後半での甲(きのえ)の「若年ゆえに未熟だが、秘められた力が発動して突如最強に」という中二病的設定や、夢枕獏あるいはジョジョっぽい擬音なども、好みが分かれるところかも。ただし、これらの難点は裏を返せば「1巻だけで完結していて、若年層に共感しやすく、マンガ的な読みやすさもある」ということですから、ある意味この作品のメリットでもあると思います。あとは好き好きですね。

その他

個人的にお気に入りのキャラは烏丸と海老沢玲美です。どちらもあの人外めいたアクの強さとイカれ具合、そして実も蓋も無さがいい感じ。あと、葉桜。これはもうとにかくラストの1行にやられました。『戦場のライラプス』もそうでしたが、とことんお話の幕引きがうまい作家さんだと思います。最後のワンセンテンスだけで心臓わしづかみだぜー。やられたー。

まとめ

前半のドライブ感あふれる展開と、全体に流れる官能の香り、そして最後のワンセンテンスが素晴らしい和ゴス伝奇ホラーアクション。。ただし、説明の多さや、後半でのわりかし若年層向け(?)な設定および擬音などは、読み手によって好みが分かれるかもしれません。個人的には、もう少し長い小説にしてみっちりとエピソードを書き込み、前半の疾走感のまま後半も駆け抜けてくれたらもっと嬉しかったかも、と思います。