石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

『BLACK SHEEP 黒き羊は聖夜に迷う』(富永浩史、ホビージャパン)感想

BLACK SHEEP 黒き羊は聖夜に迷う (HJ文庫)

BLACK SHEEP 黒き羊は聖夜に迷う (HJ文庫)

レズビアンのシスターがトンファーで悪魔を祓う百合アクション

はみだし者の貧乏シスター「ルチア」が十字架トンファーで悪魔と戦う、ライトなアクション小説。ルチアは女性が好きな女性という設定で、元カノの「リタ」や現在の想い人「絵里子」がメインキャラとしてお話に絡んできます。それだけでなく、女性同士のキスやらお風呂でのじゃれ合いやら、なんとセックスのシーンまでしっかり登場。ただし、同性愛を終始「口にしてはならないタブー」扱いし続ける姿勢と、無意味な内輪受け、そしてギャグの微妙な伝わりづらさなどが話の興をそいでいることは否めません。全体としては、「面白いんだけど、百合としてもアクションものとしても微妙に不完全燃焼感が残る」といった印象が残る作品でした。

あたしらはヴォルデモート扱いか

この作品、女同士のキスやセックスや愛情表現等の描写自体は決して悪くないのに、その一方で同性愛を「忌むべきもの」とする価値観がところどころににじみ出ている気がします。以下、それぞれp.
7とp. 102より引用(強調は引用者によります)。

「それより、お前、そのケのヤツだな。いま、この子にトキメイたな?

「な、何考えてるのよ、もしかしてあんたもソッチの人?」

このように、この小説では終始「同性愛者」「レズビアン」という語はまるで忌み語のように避けられ、ひたすら「そのケ」だの「ソッチの人」だのとあいまいにほのめかされています。あたしら同性愛者はハリー・ポッターの「例のあの人」か何かですか。口にしただけで災いでも起こるんすか。結局こういうのって、「同性愛=あからさまに口に出してはいけないタブー」というバイアスの再生産であり、そこに非常に幻滅しました。

ちなみに、p. 188は「禁断の愛」という古くっさいフレーズが恥ずかしげも無く登場していたりもします。忌み語も何も、ハナから禁断扱いだったわけですね。要するに、この小説においては、「レズビアニズムに既存のネガティブなレッテルを貼りつつ、そのエロティシズムだけを都合よく消費する」という、よくあるクソ失礼な構図がまたしても再現されているわけ。あ、よく考えてみたら、p. 102でルチアが「ソッチの人」と言ってること自体がおかしいわ。ルチアは同性が好きな人なんだから、ルチア視点なら「ソッチの人」じゃなくて「コッチの人」になるはずじゃない? 同性愛者をあくまで「異質な存在」としてまなざす一種のオリエンタリズムが、こんなところからも透けて見えます。ルチアもリタもいいキャラなのになー、もったいないなあ。

無意味な内輪受け

緊迫しているはずの場面で、オタクの内輪受けにしかならない、いわば「オタクの楽屋オチ」みたいなものがずらずらと出てくるところに違和感が。以下、pp. 86 - 87より引用。

「何その、諸星○二郎のマンガみたいなのは」

「『名はレギオン、我ら多きがゆえに』ってあれ? それはホラーじゃなくて怪獣映画じゃなかったかしら、いったいいくつネタが混ざれば済むのよ」

「あんたは何でもパクリよばわりするネット住人か」

あたしもオタクの端くれですから全部意味はわかりますし、状況によってはどれも面白みのあるセリフだとは思うんですよ。でもこれ、悪魔に憑かれてゾンビ化した警官(銃武装あり)たちが主人公たちに襲いかかるシークエンスでの会話なんですよ。なぜそこで話のテンポを台無しにしてまでこんな「オタクならわかるでしょうドゥフフフ」(イメージ)みたいなオタ臭のするギャグをダラダラ並べる必要があったのか、よくわかりません。

ギャグの微妙な伝わりづらさ

「やかましいーっ! そんなことを外で叫ぶな、体裁の悪いッ!」
と、門の向こうから花瓶か何かが飛んできて巫女さんの頭を直撃した。彼女がもんどりうった隙に、門はバタンと閉ざされてしまった。

すごく痛そうなこの場面(p. 129)、実はギャグとして描かれたものらしいです。この後、巫女さんは怪我ひとつせず立ち上がり、ルチアは「にへらと笑って」「気の強い女の子も結構、いい」などと考える、という描写が続きます。

同じ百合アクションでもたとえば『PiPit!!~ぴぴっと!!~』みたいなはっきりとコメディ色を打ち出した作品であれば、最初からこれはギャグだな、とわかると思うんですよ。でも、『BLACK SHEEP』は、ルチアのトンファーで敵の腕がへし折れ、リタのメイスで礼拝台が粉砕されるバトルアクションもの。そこに突然よくわからない状況下で鈍器が誰かの頭に激突しても、即座にギャグかどうかは判別しがたいと思うんです。前述のオタクネタとも通じることですが、もう少し前後の流れを作ってギャグならギャグ、アクションならアクションというメリハリをつけた方がよかったのでは、と思います。いや、アクション中にギャグをやるなとかそういう意味じゃなくてね。戦闘中のルチアの軽口とかはじゅうぶん面白かったことですし。

まとめ

何度も言いますが、女同士のキスやセックスや愛情表現等の描写自体は決して悪くない作品です。それだけに、随所に漂う「同性愛=忌むべきもの」という偏見チックな価値観がよけいに鼻についてしまうところが残念でした。また、妙にオタク向けに閉じてしまっている作風や、アクション部分とコメディ部分の切り替えが微妙にぎくしゃくしている点も今ひとつ。もっと面白くなりそうなのに、細かい点でいろいろと足を引っ張られてしまっている、もったいない作品だと感じました。