石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

『ストロベリーシェイクSWEET(2)』(林家志弦、一迅社)感想

ストロベリーシェイクSWEET (2) (IDコミックス 百合姫コミックス)

ストロベリーシェイクSWEET (2) (IDコミックス 百合姫コミックス)

キュートな両想い大団円

ヘタレなアイドル「樹里亜」(♀)と、天然の後輩「蘭」(♀)との波乱万丈の恋を描くコメディ、最終巻。面白かったです! 焦点を当てる女女カップルの数を2組に絞ったのが功を奏して、テンポのよい展開の中で愛とギャグが炸裂しまくっています。悶々としたすれ違いも、「女どアホウ甲子園」(p. 143)状態のド直球告白もやたらと可愛くて、たまりません。樹里亜の想いが欲望込みの好き感情であることがはっきり表明されていたり、語り部あるいは狂言回しとしてZLAYが大活躍していたりと、百合とレズビアニズムとをいちいち分離させない展開もとてもよかったです。

2組のカップルがお話を牽引

1巻では登場するカップル(片想い関係含む)の数が多すぎて、ちょっとごちゃごちゃしている感も否めなかったと思うんです。2巻では敢えてそれを「樹里亜&蘭」「世良&れな」の2組に絞り込むことで話の筋をわかりやすくし、恋と笑いをさらに盛り上げることに成功していると思います。
特に第10話はその典型。2つのカップルのラブ具合とすれ違い具合とおバカ具合、そして突然の大告白などが時に響き合い時に食い違い、まるで主旋律と副旋律のように物語を牽引していて、とんでもなく面白かったです。

すれ違いも告白もナイス

1巻は樹里亜の片想いギャグというカラーが強かったのですが、2巻では蘭も樹里亜にはっきりと恋愛感情を抱き、そこから両想いに至るまで悶々としたすれ違いが続くことになります。いわば百合における『君の名は』状態なんですが、運命よりもむしろお互いのバカ度とボケ度に由来するすれ違いであるところが非常にユニークでした。

さんざん好き感情を溜めて溜めて、それがついに爆発する告白の回もすばらしかった。樹里亜&蘭の爆弾発言も、それに続く初々しいド直球告白も、あまりにも可愛くてニヤニヤさせられっぱなしでした。

性的な意味での「好き」、あるいは百合とレズビアニズムを分離させない展開について

巻の後半からZLAYが語り部または狂言回しとして非常に重要な役割を果たしています。正直、1巻で彼女たちが最初に登場したときには「レズビアンにニンフォマニアックな道化役を担わせて、『“百合”はこういう特殊な人たちとは違うんです』的な展開になっていくんだったらやだなあ」と思わんでもなかったのですが、それはまったくの杞憂でした。メインカップルのキスも告白もZLAYがいなくては成り立たないし、ところどころにさしはさまれる、

女最高――!!!

女がいればなんでもできる 行くぞイーチ ニー サーン

などのZLAYのシャウトがきちんと状況説明になっていたりするんですよ2巻では。むしろZLAYのこれらの言葉こそが作品全体のテーマと言ってもいいんじゃないかと。そのあたりがとても痛快でした。

以前「みやきち日記」のこちらのエントリでも書いたのですが、百合好きワールドの中には、女のコ同士の関係における、自分にとって気に入らないもの(たとえば肉体関係とか、ポリガミー傾向とか、ドロドロした愛憎のもつれとか)を全て「レズビアン」の枠に押し込み、「こーゆーことをするのはレズ。百合は違う」みたいにレズビアニズムと百合とを都合よく分断したがる一派っていうのが確実にある(※百合好き全員がそうだと言ってるわけではありませんよ念の為)と思うんです。でも、『ストロベリーシェイクSWEET』は、そんな傾向はゼロ。これは嬉しかったなあ。

ちなみにこの2巻では、樹里亜は樹里亜で

…あたし蘭ちゃんが好きなんだけど 性的な意味でだよ?

と、欲望込みの好き感情であることをきっぱりと表明(p. 146)していたりします。薫も相変わらずの飛ばしっぷり(特に『intermission』での冴木との会話は必見)だし、後日譚「last order」では、とある人ととある人のベッドシーン(全年齢誌の範囲ですが)までちらりと登場。このあたりもやっぱり百合とレズビアニズムとが地続きになっている感じで、すごくよかったです。

ちょっとだけひっかかったところ

性的指向が「性癖」と表現されている(p. 224)ところだけ、ちょっとひっかかりました。辞書をひけばわかりますけど、「性癖」とは「性質上のかたより」を表す語であって、「性的まじわりの際に現れるくせ・嗜好、交接時の習慣・習性」の意でこのことばを用いるのは誤りです。つーか、この表記では同性愛は「癖」であるという間違ったニュアンスが生じてしまいます。「性的指向」「セクシュアリティ」などの言い回しでは一般に伝わりにくいということはもちろんわかるのですが、もう少し語弊がなさそうな表現になっていたらもっと嬉しかったかも。

まとめ

愛と体液と「女最高――!!!」精神であふれかえる、パワフルでラブラブな最終巻でした。「性癖」という語の誤用が気になると言えばなりますが、この怒涛のギャグとスキスキパワーの前ではそれも些細なこと。百合とレズビアニズムとをいちいち区切らずに女同士の性愛を肯定していくところもよかったし、超おすすめです!