石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

『純水アドレッセンス』(かずまこを、一迅社)感想

純水アドレッセンス (IDコミックス 百合姫コミックス)

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切ない年の差百合ラブストーリー

養護教諭の「松本」(♀)と女子高生「ななお」(♀)の切ないラブストーリー。いやー、いいわこれ。年齢差によるもどかしさと、同性同士であることによるもどかしさとを巧みにブレンドした、上質な百合漫画だと思います。かなり現実寄りのお話なのに、「物語」としての力を鮮やかに見せつけてくれるところがいいですね。メインカップルだけで閉じたお話ではないところや、プラトニックなストーリーなのに常にそこはかとない色気が漂っているところなんかも素敵でした。

リアル感と「物語」としての力が共存

森島明子さんの『半熟女子』の中に、「(フィクションの百合と現実の女女恋愛とは)かぶってたり別腹だったり?」という名台詞がありましたが、それでいくとこの『純水アドレッセンス』は「かぶってる」部分がかなり多い作品だと思います。たとえばななおの

そんなに私は悪いものなのか…?
女で…学生ってだけで誰からも隠して…好きだって気持ちまでなかったことみたいに――

という台詞(p. 95)も、松本の

あなたは若いし 将来のこともあるし それを妨げることはできないし でも あなたにとって私が今までにしたようないくつかの恋のひとつならきっと堪えられない

なんて台詞(p. 99)も、かつてジョシコーセーで今は一応大人なレズビアンのわたくしの胸にグッサグサ刺さりまくりですよもう。年齢差によるつらさと、同性同士であることによるつらさの両方を、リアル感たっぷりに描き出した作品だなあと思います。

ここで非常にユニークなのが、そのつらさを一発で打破してみせるななおの台詞(p. 103)です。ネタバレ防止のため詳細は伏せますが、一見ヘテロセクシズムの権化に見えるあの言い回しがこんな風にも使われ得るとは夢にも思っていなかったため、虚を突かれて思わずド感動してしまいました。やられたー。現実的なしんどさや切なさをしっかり描きつつ、くるりとその現実の逆関節を取ってハッピリー・エバー・アフターをキめてみせるという、「物語」としての力にメロメロです。きちんと地に足がついたお話でありながら、ただの「ドキュメント・可哀想なマイノリティ」路線で終わったりしない、すげえ漫画だと思います。

メインカップルだけで閉じてない

サブキャラクタにも女性が好きな女性が多くて、しかもみんないい味出してるんですよ。一見余裕ある大人のレズビアンなのに、その実かなりのヘタレだったりする「るこ先生」なんて、特に好き。ななおに片想いする「キヨ」もいじらしくてよかったです。こうしたメインカップル以外のキャラクタを丁寧に描くことで、物語全体に広がりと厚みが出ていると思います。

プラトニックなのに色っぽい

ななおが学生だということで松本が必死で自制しているため、最後まで肉体関係はなし。なのに、みょーに色っぽいんですよこの漫画。キスシーン(多数)や、指につけたクリームを舐めさせるシークエンスなんかはもちろん、好きな人と過ごす何気ない場面でのキャラたちの表情が実に可愛くて雄弁で、ぐっときます。特にななおのくるくる変わる表情は見ものです。あとがき漫画によると作者さんは「男ばっかり描いていたせいで作画に苦労」されたそうですが、とてもそうとは思えないすんばらしい絵柄でした。

まとめ

「年の差カップル」「同性同士」という条件を巧みに生かした、色っぽくてユニークなラブストーリーでした。絵もいいしサブキャラもいいし、もちろんメインカップルもとてもよかったです。現実味のある切ない話でありながら、マイノリティを可哀想がって終わりのメロドラマでは全っ然ないところも爽快でした。おすすめ。