石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

映画『アントニアの食卓』感想

アントニアの食卓【字幕版】 [VHS]

アントニアの食卓【字幕版】 [VHS]

豊潤な「生命」の連続(の中に、当たり前のようにレズビアンカップルが登場)

面白かったー! この作品は、オランダの肝っ玉シングルマザー「アントニア」をめぐる一種のファミリー・サーガ。アントニアの曾孫サラまでの4世代(冒頭で亡くなるアントニアの老母も含めれば5世代)の女性が登場します。めぐりゆく季節の中で繰り返される「生」と「死」を、女の目線であたたたく、かつしたたかに描いていくところがとても面白かったです。レイプや自殺、田舎の閉鎖性etc.の重いテーマも扱いつつ、決してユーモアを失わないところがいいし、何よりこの豊潤な「生命」の連続の中に当たり前のようにレズビアンカップルが登場するところに感動。年々にぎやかに広がっていくアントニアの食卓が、少しも血縁だの婚姻だのによりかからない大きな家族を形成していくところもよかった。

女目線で描く生と死

非常に面白いのは、この作品では生をつないでいくのは結婚でも男性当主でもなくあくまで「女」であること。「男が妻を娶って子を産ませる話」ではなく、「女が自分の意思でどんどん生命を育んでいく話」なんです。何度もさしはさまれるアントニアの種蒔きシーンが、それをよく象徴していると思います。アントニアの娘「ダニエル」の想像の中で、教会のキリスト像が女だったりするところもその一環かな。そもそもアントニアからサラに至るまで、4世代にわたって結婚自体していませんし、この物語では「男」はあくまで脇役でしかないんです。

とは言いつつもこの映画には男女の愛を軽視したり、結婚そのものを全否定したりはしないというバランス感覚のよさが備わっていて、そこもまた素敵でした。特に中盤の、さまざまなカップルの性行為を並行して描いていくところなんて、ユーモアと熱気があってすごくよかった。なんて贅沢な生と性の賛歌だろうと思いましたよ、あのくだり。

レズビアンカップルがフツーに登場

上記の「さまざまなカップルの性行為を並行して描いていく」シークエンスに、ごくナチュラルにレズビアンセックスも登場するんです。それがまた、ポルノチックじゃないフェアな描き方でねー。他の男女カップルと同じく、好きな人と触れ合う歓喜と興奮を微笑ましく見守るようなタッチの撮り方になっていて、楽しめました。そもそもこのカップルが知り合って恋に落ちるあたりの描写からして実にうまいんですよ。よけいな言い訳をひとつもくっつけずに、「ただ相手のことが気になって、仲良くなって、愛し合うようになりました」という一連の流れをさらりと描いていて、観ていて爽快でした。

冒頭にも書きましたが、この作品、同性愛以外にもシングルマザー、レイプ、自殺などの議論の的となりがちなテーマをいくつも含んでいます。そうした要素をいちいち大仰に取り上げ、「ああ大変大変!」とメロドラマチックに騒いでみせる映画は星の数ほどありますが、『アントニアの食卓』はそのようなつくりのお話にはなっていません。起こったことをあるがままに飲み込んで、悲しいときには悲しみ、腹が立つときには怒り、そして特に問題がない時にはいちいち大騒ぎしないという肝の太い物語なんですね。そして、この物語においては、同性愛は少しも「問題」扱いされていない。そこがなんともいい感じでした。

ユニークな拡大家族

劇中で何度も繰り返される戸外の食事風景が見もの。これはアントニアの「家族」を表しているんですが、年を追うごとにテーブルがどんどん長く大きくなり、集まる人々の数が増え、幸せそうにものを食べる皆には血縁だけにとらわれない絆がはっきりと見てとれるんです。40年の時を経てある者は死に、ある者は生まれ、食卓を囲むメンバーはゆるゆると入れ替わっていくのですが、その反面、終盤のとある箇所で、この食事風景がキリスト教的な「永遠の生命」を思わせるところも面白い。映画の最後ですっぱりと言い切られるテーマを象徴する、とても大切な場面だと思います。

まとめ

ユーモラスでしたたかであたたかい、一風変わった拡大家族のサーガでした。レズビアニズムがメインテーマのお話ではないため、純然たるレズビアン映画をお探しの方には向きませんが、そうでない方には本気でおすすめ。日本向けDVDが出てないことだけが悔やまれます(あたしはいろいろ探しまくったあげく、日本語字幕のVHSを手に入れて観ました)。