石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『RIKO―女神(ヴィーナス)の永遠』(柴田よしき、角川書店)感想

RIKO―女神(ヴィーナス)の永遠 (角川文庫)

RIKO―女神(ヴィーナス)の永遠 (角川文庫)

男とも女とも関係を持つ女刑事もの

男性優位な警察社会で奮闘する女刑事「村上緑子(リコ)」の物語。面白かったです。レズビアニズムがお話の「箸休め」的な存在かと思いきや、テーマの根幹にがっちり絡んでいたところにびっくり。一方、こんなにレイプ(男性に、です)ばっかりされてる女刑事ってどうよ、と思わんでもないのですが、それらがポルノ的な文脈ではなく、むしろジェンダーや性愛の意味に新たに斬り込む足がかりとして機能しているところは面白かったです。あと、謎解き部分の鳥肌が立つようなサスペンスもよかった。1995年に発表された小説だけに、多少の古さは否めませんが、女性同性愛が出てくるミステリとしても、また恋愛小説・性愛小説としても楽しめる良作だと思います。

レズビアニズムとテーマ

ポリアモラスなリコは、複数の男性と関係するだけでなく、交通課の魅力的なバイセクシュアル女性「陶山麻里」とも寝ています。男女の性愛がかなり暴力的なかたちで描かれる作品だけに、この女性同士の関係は一種の逃避先というか「箸休め」的な役割を担っているんだろうかと思いきや、全然違ってました。ネタバレを避けるため詳しくは言及しませんが、この作品においては女性同性愛はテーマに非常に深くかかわっています。これは嬉しい驚きでした。ベッドシーンも繊細でよかったです。

こんなにレイプばっかりされてる女刑事ってどうよ?

キンジー・ミルホーンやローレン・ローラノをはじめとして、レイプ被害の経験がある女ディテクティヴものってそう珍しくはないと思うんですよ。が、それにしてもリコはあまりにもしょっちゅうレイプされすぎです。過去の同僚に犯され、好きな男に犯され、捜査中にも犯され、偶然にしては股間が忙しすぎですこの女刑事。

ただ、特筆すべきは、それらのレイプシーンがポルノではなく完全に「暴力」として描かれていること。そして、リコはやられっぱなしなわけではなく、時に加害者をレイプし返してさえみせること。つまり、これって単に男性の横暴を告発して終わりの小説ではなく、男女のジェンダーや欲望を問い直し、再定義する小説でもあるんです。そのあたりは斬新で非常に面白かったです。

謎解きのサスペンス

ミステリとしてはホワイダニットに属するこの作品ですが、謎が解けていくところのサスペンスといったらもう! 特に、事件関係者の共通点が一気に浮かび上がるところなんて、鳥肌ものです。今回リコが追っている事件は、男が男に輪姦される非合法ビデオに端を発する殺人事件なのですが、犯人が「なぜ」それらの男たちを被害者に選んだのかという点にも鬼気迫る迫力がありました。

このへんはちょっと古いかも

10年以上も前のお話だけあって、「ビデオ」とか「ディスコ」とか、登場する名詞自体が既に懐かしい感じ。あと、リコの独白部分も、語尾の言い回し等がかなり古臭い印象を受けました。ただし、90年代文化の香りを楽しむという意味では、これはこれでかえって面白いかもしれません。

まとめ

性愛小説でもあり、警察小説でもあり、一種のフェミニズム小説でもあるオモシロ小説。女性同性愛がただの「ヘテロセクシュアルにとっての都合のいい逃げ場」として夢見がちに美化されるのではなく、骨太なテーマにがっちりとかかわっているところがよかったです。性暴力のシークエンスが多いところや90年代っぽい古さなどは多少読み手を選ぶかもですが、そのへんが大丈夫な方ならおすすめ。