石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

百合アンソロジー『つぼみ VOL.1』(芳文社)感想

つぼみ VOL.1 (まんがタイムKRコミックス GLシリーズ)

つぼみ VOL.1 (まんがタイムKRコミックス GLシリーズ)

質量ともに手ごたえあり。買って正解の百合アンソロ

芳文社から新しく創刊された百合アンソロジーです。306ページの分厚い本ですが、量だけでなく質も充実。萌え系・思春期系の作品だけでなく、毒をきかせた大人同士のお話や青年誌タッチの作品なども収録されており、一迅社系のアンソロとはまた違った面白さを感じました。今後の百合ジャンルの可能性を大きく広げるきっかけになりそうな、意欲的な一冊です。ていうか個々の作品がすごく面白いですよこれ。買ってよかった!

印象に残った作品など

「コブリアワセ(上編)」(宇河弘樹)

第二次世界大戦後という時代設定と、白黒のメリハリがきいた雰囲気ある絵柄にノックアウト。かっこいい作風だなあ。百合作品でこれをやっちゃうってところにまたゾクゾクします。今のところストーリーはそれほど百合っぽくないのですが(※無理に百合百合しくしなくても十分面白いんですけど)、今回は「上編」ということなので続きが楽しみです。

「エビスさんとホテイさん(第1話)」(きづきあきら+サトウナンキ)

人の心のダークな部分をえぐり出すのが超絶うまいこの作家さんが「百合アンソロ」でどういう作品を描かれるのか、実はとても楽しみにしていました。期待は裏切られませんでした。甘さと毒の配分が絶妙な、すげーインパクトあるOL百合ストーリーですよこれ。可愛さとコワさがぐるぐると切り替わるテンポの良さといい、主人公ホテイさんの心のチクチクズキズキ具合といい、もう首根っこつかまれてお話の世界に引きずり込まれた感じ。楽しいー。

「ランナーズハイ」(きぎたつみ)

高校陸上部ものという、わりとスタンダードな思春期ストーリーなんですが、やや青年誌っぽい落ち着いた絵柄が非常に印象的。萌え絵のきゃぴきゃぴ百合に食傷ぎみの方に強くおすすめしたいです。あと、部長さんのキャラがとてもよかったです。最後のページの表情とか、見とれました。

「ついでのはなし」(大朋めがね)

女子校の養護教諭「もなよ」さんが、生徒の恋愛話のついでに自分の過去の百合恋愛を語る、という物語。途中までは「わりかしありがちなパターンかしら」と思っていたのですが、最後のオチにやられました。くーっ。そう来たか! もなよさんの飄々としたキャラもよかったし、繊細で可愛らしい絵柄も好きです。

「キャメル」(宮内由香)

タバコと絡めてオチをつけるあたりが大人な雰囲気。そうだよ、「百合=10代少女の学園もの」じゃなくたっていいんだよ! 結末のせつなさも、とてもよかったです。全部読んでから再読すると、「煙草吸い過ぎちゃダメだよ 最近多いもん」なんていうさりげない台詞がしみじみとつらくて悶絶しました。

「この靴しりませんか?」(水谷フーカ)

歯医者さんで片靴はき間違えられたことからはじまるラブストーリー。おたがい天然同士なボーッとした出会いのお話ながら、

片靴のリアルな手触りに ドキドキする

なんてところ(p. 285)がリアル感を持ってぐんと胸に迫ってくるところがたまらんです。「靴」という誰にとっても身近なモチーフを使って、生身の人間同士のつながりとか関わりとかをあったかく描いたお話だなあと思いました。

執筆陣一覧

上で紹介し切れなかった方も含めて、vol.1の執筆陣一覧を表紙からそのまま写しておきます。

  • 吉富昭仁
  • 宇河弘樹
  • はっとりみつる
  • 森永みるく
  • 釣巻和
  • 大朋めがね
  • きづきあきら+サトウナンキ
  • 小川ひだり
  • 水谷フーカ
  • 久遠あき
  • 星逢ひろ
  • 泉結基
  • きぎたつみ
  • 宮内由香
  • 吉田美紀子

おまけ:『つぼみvol.2』の執筆予定者一覧(五十音順)

vol.2は2009年5月発売だそうです。

  • 玄鉄絢
  • 天乃タカ
  • 宇河弘樹
  • 裏次郎
  • 大朋めがね
  • 小川ひだり
  • きづきあきら+サトウナンキ
  • 関谷あさみ
  • ナヲコ
  • 水谷フーカ
  • 宮内由香
  • 森永みるく
  • 吉富昭仁

まとめ

分厚いだけでなく、中身もたいへん充実した入魂の百合アンソロでした。既成の「いかにも百合」な路線をなぞるだけではなく、ジャンルそのものの新たな可能性を積極的に模索していく意欲が感じられて楽しかったです。vol.2も今からとても楽しみ。