石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

『まんがの作り方(1)』(平尾アウリ、徳間書店)感想

まんがの作り方 (1) (リュウコミックス)

まんがの作り方 (1) (リュウコミックス)

漫画家×漫画家の、飄々とした百合漫画

「漫画家と漫画家で百合ですけど何か?」と帯にこそありますが、そこまでフルスロットルな百合恋愛ものというわけではありません。『まんがの作り方』は、元漫画家の主人公「川口明日香」が、「百合漫画のネタにするため」という不純な動機で、同じく漫画家の後輩女性「森下」と付き合い始めるというお話。森下の方の想いはガチなので、このまま行ったら悲惨な話になりそうなのに、意外にもそうはならずに最後まで飄々とした雰囲気を保っています。少しずつ変化していく川口の心境に加え、全てを見通している森下のキャラ、繊細な絵柄、そして淡々としたギャグなどが、この「飄々」感を支えているんじゃないかと思います。あと、「しなきゃ」と「したい」の違いを、キスと漫画の両方に重ね合わせてあぶり出していくところもとても面白かったです。

不純な動機のおつきあい

冒頭だけ見たらすごくイヤな話なんですよコレ。漫画は描きたしネタはなし(そして資料集めも嫌で想像力もない)という川口が、

今の流行ってボーイズラブとガールズラブでしょ? 流行さえ押さえていればね!

なんて理由(p. 10)で森下の気持ちを利用するところがまず不快だし、デートの時まで

こんなことしたり あんなとこ行ったり をメモってあとは漫画に起こすだけかあ……

と考えている(p. 11)ところが極悪すぎ。森下が素直に嬉しがっているだけに、「ああもう糞ヘテロにレズビアンが使い捨てられるだけの話は嫌だよ」とコミックスを閉じそうになってしまったほど。

ところがこのお話、決してそのままでは終わらないんです。極悪どころか、むしろ飄々たるおかしみをたたえつつ、ライトな百合話としてきちんと成立してしまっています。なまじ最初からあまあまベタベタの百合ものとは違った面白さがあって、そこがとてもよかったです。

飄々ムードを支えるもの

ポイントは以下の4つかと。

森下のキャラ
第1話で既に、森下は全てを見通していることが示唆されます。その上で「先輩と一緒にいられるならそれでいい」と割り切れるところが森下の強さ。つまりこのお話においては森下は「被害者」ではなく、「自分の意思で川口と一緒にいる人」なんですね。
川口の心理描写
実は第1話で川口が政人に向かって言う台詞の中に、既に森下へのかすかな好き感情の芽がほの見えています。本人、自覚してませんが。その後も自覚ゼロのままながらも、「自分のためじゃなくてこの子のため」を優先するようになったり、ネタとして一緒にいる必要がなくなってからも一緒にいたりと、少しずつ気持ちが森下寄りになっていくところが丁寧に描かれていると思います。これらの心理描写が、川口というキャラが、冒頭のふるまいから連想できるような単純な「いやなやつ」ではないことを暗に示していると思います。
繊細な絵柄
細い線で描かれる少女漫画風の美しい絵が、お話全体に優しい雰囲気を添えてます。
淡々としたギャグ
「残酷な自然のしくみ」(p. 31)、「もし油性ペンしかなかったらどうするんですか」(p. 104)、「味付け海苔しかなかったらどうするんですか」(p. 108)など、初期の佐々木倫子を思わせるような淡々としたギャグが良くて良くて。メタ漫画として登場する川口の作品にもウケました。 随所にこういった笑いが仕込んであることで、お話が必要以上に重くならずに済んでいると思います。

「しなきゃ」と「したい」

この作品って、百合漫画でもあると同時に、一種の『まんが道』でもあると思うんですよ。それが端的に表れているのは、たとえば森下と川口のこんな会話(pp. 45 - 48)。

先輩は漫画描かなきゃって思ってるんじゃないですか
ほら こことか「描かなきゃ」って線してますよ

早くちゃんとした漫画家にはなりたいけど 「描かなきゃ」じゃダメなんだねえ

ひらたく言うと義務感にかられて描くのではなく「描きたい漫画」を描け、ってことなんですけど、ここで面白いのは、同じテーマがふたりのキス(まだしてませんが)にもかかわってくるところ。というのは、「しなきゃ」ではなく「したい」と思ってキスしたい、と川口本人がはっきり発言して(p. 48)るんですよ。つまりこのお話って、一見ただの「打算で始まった百合恋愛」でありながら、実は「『しなきゃ』と『したい』をめぐる、生真面目で誠実な『女のまんが道』、兼『女の実践ガールズラブ道』」という二重構造になっているわけです。この他に類を見ない物語構造が、とても面白かったです。

まとめ

軽妙な「女のまんが道」兼「女の実践ガールズラブ道」とでもいうべきスタンスの、ユニークな作品だと思います。今後本当の意味でカップリング成立するのか、そしてふたりが漫画家としてどう成長していくのか、楽しみです。最初からフルスロットルの本気恋愛モードでないとお気に召さない方には合わないと思いますが、淡々としたライト百合やコミカルな成長物語がお好きな方にはすごくおすすめ。