石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

『夢見るレンタル・ドール 色の章』(森奈津子、徳間書店)感想

夢見るレンタル・ドール 色の章

夢見るレンタル・ドール 色の章

エロスでぎっちりのバイセクシュアルSM小説

「様々な人の手を経て少しずつ熟してゆくおまえを見るのが、ぼくの楽しみなんだ。そうして、熟しきったおまえを、今度は肉体で楽しむ。ぼくは決して、おまえに冷たくしているわけではないよ。目の前のくだものを青いうちに味わうより、大切に枝に残しておいて、おいしくなってからゆっくり楽しむ――そのほうが、いいだろう?」

……ということで(p. 58)、愛する美しい従兄「雪彦」によってさまざまな相手に貸し出され、奴隷もしくはお人形として性的な経験を積んでいく少女「愛理」(あいり)の物語。エロスと笑いの名手・森奈津子さんの小説ですが、今回はタイトル通り「色」、すなわち性愛に徹したお話となっています。いつも通り、SM要素に陰惨さがないところがとてもいいし、登場人物のほとんどがバイセクシュアルであるところも楽しかったです。これだけ官能を詰め込んだお話でありながら、実は純愛小説でもあるところが面白いし、その愛がモノガミー規範に全然縛られていないところもクィアでステキでした。次巻「恋の章」(完結編)も楽しみです。

両性愛とSMについて

1冊びっちり官能シーンが詰まっている上に、両性愛とSMの要素が多く、ありきたりな男女エロとは違ったバラエティーにあふれています。

  • 美しい女性に虐められる
  • 美しい女装少年を虐める
  • 美しい男性を、男女2人がかりで陵辱する
  • 美しい男性同士のセックスの横で目隠しをされて拘束され、もどかしさに身悶える

などなど、それぞれ趣向の違ったシークエンスがこれでもかとばかりに出てきます。どれもあくまで「SM」であって「暴力」ではまったくないので、暴力的なエロが苦手な方でも安心して楽しめる内容かと。ちなみにひとつひとつのエロシーン自体は比較的あっさり目です。もう少しねっちりみっちりイヤらしく描写してもよかったかも、という気もしないではないのですが、それをやると1000枚におさまらないこと必定ですし、読者の体力も尽きそうなので、これはこれでいいような気もします。

女性同士の性愛について

愛理がレンタルされる相手は男性だけではなく、女性との行為もたくさん登場します。そもそも、なにも知らなかった愛理の「閉じあわされた蝶の翅」を最初に開いてみせる(p. 16)のは女性だったりしますしね。そんなわけで女性同士のエロスもたっぷり含んでいる作品なのですが、だからこそ、その中で描かれる愛理から大学の同級生「花奈子」へのプラトニックな片思いが非常によかったです。そこだけ禁欲的なまでに清らかで、なんか百合小説みたいな味わいがあるんですよ。終盤では伏線も張られていることだし、この恋が次巻「恋の章」でどのような展開を迎えるのか楽しみです。

ポリアモラスな純愛小説

上の方でもちょっと書きましたが、実はこれは純愛小説でもあります。しかも、主人公がけなげに愛を捧げている相手は男女含めて複数いて、どの想いも掛け値なしの本気。つまりこの作品はSM官能小説/バイセクシュアル小説であると同時に、ポリアモラスな純愛小説でもあるわけ。異性愛規範のみならず、「純愛=1対1の関係」という規範をも軽やかにスルーしてみせるクィアさがとても楽しかったです。

まとめ

SMと両性愛に彩られた、官能の千本ノックのような1冊。ひとつひとつのエロシークエンスのねっちり度は比較的低めにおさえられているのですが、何しろこの物量攻撃は圧巻の一言です。ポリアモラスな愛のありかたが肯定的に描かれているところも面白いし、その中でも主人公愛理から花奈子への甘酸っぱい片想いが光っていると思います。次巻「恋の章」も見逃せません。